$圏外の日乘-ちくま文庫『ブラウン神父の無心』
(1911/南條竹則・坂本あおい訳、ちくま文庫、2012.12.10)

風邪を引いた病床の徒然に読み終えました。

チェスタトンのブラウン神父シリーズは
ミステリ・ファンなら
知らなければもぐりだといっていいくらい
超有名なシリーズです。

創元推理文庫版で
『ブラウン神父の童心』として
長く読み継がれてまして
自分が最初に読み通したのも
創元推理文庫版です。

$圏外の日乘-創元推理文庫『ブラウン神父の童心』
(福田恆存・中村保男訳、1959.7.24)

手許にあるのは
1977(昭和55)年11月25日発行の
24刷です。

後に訳者名は中村保男単独表記となりました。

さらに、いつからかは分かりませんが
ブラウン神父のシルエットをあしらった
挿画カバーの版も出ています。


子ども向けの翻訳も出ていて
オールド・ファンにはお馴染みの
あかね書房・少年少女世界推理文学全集の
第5巻(1964年初刊)に収録されていまして
自分も学校の図書室で借りて
読んだ記憶があります。

中でも「飛ぶ星」のイラストで
ブラウン神父が
ロバの被り物を被らされたイラストは
鮮明に覚えています。

ただ、面白かったかどうかと言われれば
ぶっちゃけ、面白くなかった(^^;ゞ


その後、『ブラウン神父の知恵』だか
『ブラウン神父の秘密』だかを
創元推理文庫で買いまして
読み進めてはみたものの
やっぱりあんまり面白いとは思わなかった。

特に『知恵』に入っている「泥棒天国」が
よく分からなかったという記憶があります。

その後、都筑道夫のミステリ論に触発されて
確か中学から高校にかけての頃
シリーズ全5冊を曲がりなりにも読み通しましたが
読みにくいという印象以外
残っておりませんでした。


なぜかといえば
理由ははっきりしているのでありまして
翻訳が読みにくかった。
(当時の自分にとっては、です)

それと、トリックがあまりに有名すぎて
ほとんど解説書なんかで
バラされていたからだと思います。

『無心』に入っているものでは
「透明人間」(創元版では「見えない男」)
「神の鉄槌」
「折れた剣の招牌」(創元版では「折れた剣」)
「三つの凶器」あたりが
ネタバレ四巨頭で、
中でも「折れた剣」なんて
誰もが一度は聞いたことが
あるんじゃないかと思われるくらいです。

その一方で、冒頭の「青い十字架」や
「飛ぶ星」のように
トリックらしいトリックを扱っている
という感じがしない作品もあったりして
どうも子どもの頃は即物的で
分かり易いものを好む人間だったようで
こちらの心に響いてこなかったわけです。

物凄いという点では随一の
トリッキーな作品「秘密の庭」なんかは
簡単には説明しがたいので
ネタバレの難を逃れていまして(笑)
だからずっと『無心』の中では
これがピカイチだと思ってました。


ですから長い間
再読してこなかったわけですが
今回、新訳が出たことでもあり
ちょうどいい機会なので読んでみたら
これが何とまあ、読みやすい上に面白い。

特に、昔はさほど面白いとも思わなかった
「青い十字架」と「飛ぶ星」が面白く
感銘を受けたのには、びっくりでした。

「飛ぶ星」の129~130ページで
ブラウン神父が侠盗フランボーに対して
切々と語りかけるシーンは
やっぱりこちらが年を取ったからかなあ
実にしみじみとした、泣けてくるような
良い説教だと思いました。
(「お説教」じゃありませんよ、念のため)

トリックが有名すぎて
出がらしだけだと思い込んでいた
「透明人間」も
トリックを知っているが故に
伏線の見事さに気づくという
余録があった他、
こんな話(世界)だったのか!
と、びっくりしてしまいました。

「サラディン公の罪」は
どんな話か覚えてなかったけど
いかにもチェスタトンらしい話で
フランボーが戻ってきたのを見て
「胸が詰まって泣きそうにな」った
ブラウン神父の心情に
それこそ胸を突かれたり。

今回、「三つの凶器」が
一番つまらなかったのですが
それでもつらつら考えている内に
こう読んだら面白い
というポイントに気づいたり。

「折れた剣の招牌」も
有名なトリックだけだと
退屈なんですが
(実際、退屈でしたw)
やっぱり、トリック以外の
ここが面白さのキモ
というポイントに気づいたり。


それにしても、再読なのに
これほどの面白さとは……。

ミステリはやっぱり
病床で読むのが一番なのかしら(苦笑)


とにかく、ミステリ好きだけど
まだ読んだことがないという人がいたら
絶対のおススメ、読んでみてください。

それなりの年齢であればあるほど
深さを感じられると思います。