(河出文庫、2019年5月20日発行)
以前、同じ文庫から出た
同じ著者の『バッハ』を
紹介したことがありますが
まさか続いてグールドがでるとは
そのときは思いもよらず。
これは買わねばなるまい
読まねばなるまいと思って
購入したのでしたが
やっぱり自分にしては珍しく
もう読み終えちゃいました。
グレン・グールドというカナダ人のピアニストは
1955年に『ゴールドベルグ変奏曲』で
鮮烈なデビューを飾って以来
特にバッハ弾きとして知られるようになり
カリスマ的な存在になっていくわけですが
そのデビュー当時から
吉田がグールドについて書いてきたエッセイと
インタビューが収められています。
こちらは前著の『バッハ』とは違い
河出文庫オリジナル版のようです。
前著の『バッハ』にも
グールドに関する文章が
収録されていましたけど
そこにも書かれていた通り
1955年にデビューして間もない頃の
日本におけるグールドの評価は
必ずしも良いものではありませんでした。
吉田はそれを不満に思って
レコード評を書いたのが
音楽評論の分野に足を踏み入れる
きっかけだったようです。
それから幾星霜という感じで
収められている文章の中には
もう書くことはない、と
倦んでいるような一節も
見られたりするのが面白かったり。
あと、グールドの生前というか
コンサート・ピアニスト時代には
ついにその演奏に生でふれることがなく
それを何度も悔いているのも面白いんですけど
その内にカナダのテレビに出演した映像や
ドキュメンタリー映画などを見ることが叶い
それでグールドのスタイルが見えてくる
という経緯も興味深いところです。
そういうこともあって
収中いちばん面白かったのは
それまで書いたり、話したり
考察したりしてきた結果を
分かりやすく語っている最後の2編、
『グレン・グールド 27歳の記録』(1959)が
日本で公開されたときの上映前の講演録である
「グレン・グールドとは何か」とか
「グレン・グールドを語る」と題された
インタビューとかだったりします。
「グレン・グールドとは何か」では
参考にベートーヴェンやモーツァルト
バッハの演奏がかけられたりしたようで
該当箇所に曲名が掲げられています。
ベートーヴェンのピアノ・ソナタ集が
あいにく手許にはないんですけど
(吉田がその編集姿勢をくさしている
有名曲を集めた日本編集盤はあります)
幸いモーツァルトのピアノ・ソナタ全集や
バッハのトッカータ集は持ってますから
なんとか当時の講演を再現できそうで
ちょっと嬉しかったり。
それにしても
一度だけ見たことのある
ベートーヴェンのピアノ・ソナタ集を
買わなかったのが
返す返すも悔やまれます。
もっとも
吉田が観たと思われる映像ソフトは
幸い家に揃ってるっぽいので
無理をして買っといた甲斐が
あったというもの。(^^)v
なお、あとがきでは
中原中也と散歩している時の
思い出話なんかが出てきたりして
これまで意識してこなかったけど
吉田という人は文人だったんだなあと
改めて印象づけられました。
いわゆる音楽学者ではなく
ディレッタントとしての音楽評論家だった
とでもいいましょうか。
だからこそグールドを
いち早く評価できたのかもしれない
とか思ったりした次第です。
解説は青柳いづみこ。
グレン・グールドを論じた著書がある
ということで依頼されたものでしょう。
『ゴールドベルグ変奏曲』が
1955年にリリースされた際の
同時代評の中には
好意評もあったことを補足されていて
これはさすがですけど
たった3ページしかないので
チョー物足りないっす。