小川洋子の小説
『やさしい訴え』(1996)に出てくる
「預言者エレミヤの哀歌」は
誰の演奏を基にしているのだろうと考えて
いろいろと検索してみたところ
ルネ・ヤーコプスが
シャルパンティエの
ルソン・ド・テネブレを演奏した
『聖木曜日のテネブレの読誦』に、ずばり
「預言者エレミヤの哀歌」という
トラックがあることを知り
金曜日じゃないけど
これかなあ、とか
探してみなくちゃなあ、とか
とりあえず思っていたのでした。

先にも紹介した
「教えて!goo」のベストアンサーでは
シャルパンティエだと
「クープランほどイメージが
 ぴったり来ません」
といわれてはいます。

それと、上であげた
『聖木曜日のテネブレの読誦』は
カウンターテナー歌手の
ヤーコプスがメインであるだけに
ソプラノではなくて
カウンターテナーでの歌唱か
とは思います。

だけど、こればっかりは
聴いてみなくちゃ分からない。

とりあえずヤーコプス盤を探すしかないか
と思って
先々週の木曜日(19日のこと)
塾の会議に行く前に
横浜のレコファンに寄ったところ
たまたま見つけたのが
今回紹介する
新久美(あらた・くみ)のCDでした。

新久美『預言者エレミヤの哀歌:聖金曜日』
(エオリアンレコード AEO-511、1993.12.10)

発売年月日のデータは
CDJournal に寄ります。

録音は1992年12月です。


タイトルの副題は
ジャケット背およびタスキ背に拠りました。

タスキ表だと
「聖金曜日の〈ルソン・ド・テネブル〉」
ジャケット裏だと
「ルソン・ド・テネブル:聖金曜日」
となっています。

なぜこうもバラバラなのか
理解に苦しみますし
どれを基準にすべきか
見当もつきませんが
今回の記事には
いちばん簡潔なものにした次第です。


それはともかく
レコファンで見つけたとき
おー、聖金曜日用じゃん
こんなの出してたんだ、と思い
迷わず購入しました。

そして
帰ってから聴いてみたところ
小説に書いてあった通り
まぎれもなく
「前奏も伴奏もなく、
 ただ静寂の中を
 女性の声だけが聞こえてきた」
(文庫版、p.83)
という演奏だったので
感動にうち奮えたことでした。

歌詞カードを見てみると
まさに小説に引用されている通り
「主の慈しみは決して絶えない。
 主の憐れみは決して尽きない。
 それは朝ごとに新たになる」
と書かれていて
小説中で聴いているのはこれだ!
と思った次第です。


これまで紹介してきた
『フランス・クラヴサン音楽の精華』
『シフォーチの別れ』が共に
小説が上梓された1996年より前の
1991年のリリースであることから
そして両盤とも現実に存在することから
1993年リリースの本盤が
小説を書く際の参考に聴かれた可能性は
非常に高いと思います。

上にも書いた通り
歌詞が合っているだけでなく
「前奏も伴奏もなく、ただ静寂の中を
 女性の声だけが聞こえ」る
という条件にも合っているし。

なによりも
「予言者エレミヤ」ではなく
「預言者エレミヤ」という
表記になっているのが
ポイントです。

ミサワ・クラシックス盤では
「予言者」だったので
これではないと判断したわけですが
今度は小説中の表記と同じわけでして
これを無視するわけにはいきません。

前にも書いた通り
小説中の表記は
意外と正確なのです。


上にあげた
ルネ・ヤーコプスによる
シャルパンティエの
『聖木曜日のテネブレの読誦』は
1989年の発売で
これである可能性も
わずかとはいえ、あります。

ここでは詳述しませんが
(いずれ当ブログで書く予定ですが)
後に知った理由により
ソプラノ独唱の可能性もあります。

こればかりは
聴いてみないと分かりません。

ただ、作中の他の曲の選択から
どうも日本人演奏家のCDを
参考にした形跡が見られるので
小説内で聴かれているのは
新久美の本盤で
ほぼ間違いないと考える次第です。


新久美のCDで演奏されているのは
ギヨーム・ガブリエル・ニヴェールの
「第3日目第1のルソン」です。

当盤ではこのあと
ジャン=バティスト・グフェの
「第3日目第1のルソン」
ミシェル・ランベール
「第3日目第2のルソン」
ニヴェール「第3日目第3のルソン」
グフェ「第3日目第2のルソン」と
続きますけど
そちらはすべて
大橋敏成のヴィオラ・ダ・ガンバ
小林英之のポジティフオルガン
戸崎広乃のチェンバロによる
伴奏付きです。


本盤は
ずいぶん前から
レコファンの棚に
あったのだと思いますけど
自分が器楽もの好きということもあり
何度か目にしながら
スルーしてたのではないかと思います。

今度のようなことでもなければ
とうてい購入したとは思えず
こういう出会いがあると
ほんと奇跡というものを
信じたくなりますね。

売れ残っていてくれて
ありがとう! といった感じ。


新久美は本盤の前に
ミサワ・クラシックスから
聖水曜日用と
聖木曜日用の
2枚のルソン・ド・テネブルのCDを
CDを出しています。

聖水曜日用については
前に紹介しました。

そのあとに
レーベルを改めて出したのが本盤で
さらにそのあと
同じエオリアンレコードから
聖水・木曜日用のCDを出しています。

そちらはまだ
Amazon を始めとする
各種ネットショップで
購入可能だったのため
迷わず購入しました。

新久美『預言者エレミヤの哀歌:聖水・木曜日』
(エオリアンレコード AEO-512、1994.6.10)

上の発売月日は
Amazon のデータに拠ります。


新久美の出している
ルソン・ド・テネブルのCDは
全部で4枚のようです。

未入手のミサワ・クラシックス盤は
希少盤っぽいので
今後、中古で見つけられるかどうか
微妙なところですが
今回のような偶然の出会いを経験すると
いつかは見つかるような気がして
なりません。


それと見つけなくちゃいけないのは
ルネ・ヤーコプスの
『聖木曜日のテネブレの読誦』と
『聖金曜日のテネブレの読誦』の
日本流通仕様盤ですかね。

海外盤でもいいんですけど
『やさしい訴え』執筆当時にあった盤を
確認したいものですから。


ま、どの盤も
死ぬまでに見つかればいいかな、と。

見つけたらブログのネタにしますので
お楽しみに
というか
気長にお待ちいただければ幸い。(^_^)


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