フランソワ・クープランの
『ルソン・ド・テネブレ』を聴こうと思い
手持ちのCDを探してみたら
3枚、見つかった、ということは
以前の記事で書いた通りです。

1枚はジェラール・レーヌ
カウンターテナーでソロを務める
イル・セミナリオ・ムジカーレの演奏で
もう1枚はローランス・ブーレイ
(ロランス・ブレとも)が指揮する
最初期の演奏のもの。

そして残り1枚が
新久美(あらた・くみ)という
日本人ソプラノ歌手によるCDです。

新久美『予言者エレミヤの哀歌』
(ミサワホーム総合研究所 CSD-8、1989)

長くなるので
タイトルでは簡略に記しましたが
正確なタイトルは
『予言者エレミヤの哀歌
 〈ルソン・ド・テネブル〉』
といいます。

ジャケ背では
本体もタスキ(オビ)も
副題は省略されています。
(下はタスキの写真)

新久美『予言者エレミヤの哀歌』タスキ


ミサワホームは
1980年代後半から90年代にかけて
(ということは、ちょうどバブルの頃w)
ミサワ・クラシックスという
レーベルを持っており
何枚かCDを出していました。

このミサワ・クラシックスから出ていた
ダンスリー合奏団の
『よき人に逢っての帰り』というのを
たまたま持っています。

というのは
以前にも紹介したことがある
皆川達夫の『ルネサンス・バロック名曲名盤100』
(音楽之友社 ON BOOKS、1992.2.10)で
紹介されていたからなんですが
それを覚えていて
新久美のCDを(たぶん中古で)見つけたとき
「へえ、こんなのも出てるんだ」と思い
購入したものでしょう。

よく覚えてないけど。f^_^;


このCDはちょっと変わっていて
フランソワ・クープランの
第1および第2ルソンだけでなく
ミシェル・ランベールの第2ルソンと
ミシェル=リシャール・ドラランドの
(ド・ラランドとも。本盤ではドラランド)
第3ルソンも収めた
アンソロジーになってます。

新久美のソプラノ独唱に合わせて
曲が選ばれたようで
クープランの第3ルソンは
二重唱のためでしょう
収録されていません。

もっともドラランドの場合
第3ルソンしか
現存していないようですから
それもあって
こういう変則的な構成に
なったのかもしれませんけど。


伴奏は
監修も務める
大橋敏成のヴィオラ・ダ・ガンバと
今井奈緒子のポジティヴ・オルガン
(ポジティフオルガンと同じ)
芝崎久美子のチェンバロ
という編成。

ヴィオラ・ダ・ガンバは
全曲共通ですが
その他は曲によって
オルガンになったり
チェンバロになったりします。

クープランの第2ルソンは
チェンバロが伴奏していて
ちょっと珍しいですね。


トラック1には
聖木曜日のテネブレの第一節が
(間違いではありません。
 なぜか聖木曜日用のものなのです)
グレゴリオ聖歌の音型によって
朗読されています。

このグレゴリオ聖歌の音型を基に
さまざまな曲が作られたようですが
自分の耳では
基のものがどうアレンジされているのか
よく分かりません。

それはそれとして
一般的に男声で朗読される
グレゴリオ聖歌が
女声のソプラノで朗読される美しさは
想像を絶するものがあります。


さらに
一般的にカウンターテナーか
コントラルトで演奏される
クープランその他が
(クープラン以外はどうか
 寡聞にして知りませんけど)
女声のソプラノで演奏されており
これがまた素晴しい。

深夜、静かな環境で聴くと
胸に迫るものがあります。

あまり話題になってないようですけど
(自分が知らないだけかもしれません)
これ、隠れた名盤なんじゃないかと
思ったことでした。

久々に聴いといてなんですが。(^^ゞ


ちなみに装幀の美麗さ
というか
変わっているところは
ジェラーヌ・レーヌ盤に
優るとも劣らない感じです。

ケースのふたこそ透明なものですけど
ライナーが掲載されたジャケットとは別に
タイトルだけ印刷した薄い紙
(グラシン紙かな?)が
ライナーに重ねられていて
実におしゃれな感じ。

新久美『予言者エレミヤの哀歌』ジャケット

無駄におしゃれな感じが
いかにもバブル期らしいと
いえなくもないのですけど(苦笑)
こういう凝ったデザインは
CDでは珍しい(と思う)ので
珍重されます。


ミサワ・クラシックスは
今では入手がなかなか困難だけに
これを買っておいた
自分の先見の明を
ちょっと褒めてやりたいところです。

ま、たまたまですけどね。( ̄▽ ̄)


ところで
小川洋子の小説
『やさしい訴え』(1996)に描かれた
『預言者エレミヤの哀歌』を聴く場面では
次のように書かれています。

「前奏も伴奏もなく、
 ただ静寂の中を女性の声だけが
 聞こえてきた。
 歌うというほど激しくはなく、
 みずからの胸の内に
 語り掛けるような響きだった。」
 (文庫版、p.83)

これまで紹介してきた
ルソン・ド・テネブレの演奏は
すべてカウンターテナーか
コントラルトによるもので
ソプラノというのはありませんでした。

先にも書いたように
当時とピッチが違うこともあり
カウンターテナーか
コントラルトで演奏されるのが
一般的なようなのでして
ソプラノ独唱による
『預言者エレミヤの哀歌』
すなわち
ルソン・ド・テネブレというのは
実は珍しかったりします。

というわけで
小説に出てくる演奏は
このCDがいちばん近いのですけど
残念ながら
本盤に収められているのは全て
聖水曜日のためのものなのですね。


ところで
小川洋子の小説では
「予言者エレミヤ」ではなくて
「預言者エレミヤ」と
表記されています。

本盤のタイトルは
『予言者エレミヤの哀歌
 〈ルソン・ド・テネブル〉』で
「預」の字が違う。

その一点からも
小説内で聴いているのは
新久美の本盤ではないと
推測されるわけです。


細かいことをいっているようですが
今までに紹介した
『フランス・クラヴサン音楽の精華』
『シフォーチの別れ』などは
小説内の表記通りのタイトルで
CDが現実に存在していました。

ということは
小説中の『預言者エレミヤの哀歌』も
『予言者エレミヤの哀歌』の誤記ではなく
そういうタイトルのCDが
存在していることを
示唆してはいないでしょうか。


じゃあ、やっぱり
別に探さなくちゃなあ
クープランは聖水曜日の分しか
作曲していないようだし
そうなると
小説の発表時期から考えて
シャルパンティエの
聖金曜日のためのルソンを演奏した
ルネ・ヤーコプスの盤になるのかなあ
と、いろいろ検索しながら
考えたりしていたのですが
実は、新久美に
聖金曜日の演奏があることを
その後に知りました。

それについては
また改めて書くことにしましょう。


引っぱるなあ。( ̄▽ ̄)


ペタしてね