間が開きましたが、81kg級の金メダリスト永瀬 貴規選手の東京五輪での戦いを振り返るこのシリーズ、今回は準々決勝です。
レッセル選手(ドイツ)
左組み。
釣り手(左手)で相手の背中を持った状態から、腰に乗せて投げる大腰や内股、「やぐら投げ」などが得意技です。
また、相手が畳に膝を付く一瞬を狙って入る絞め技も得意としており、油断できません。
今大会は、実力者デ ウィト選手(オランダ)を破って勝ち上がってきました。
永瀬選手にとっては今大会初のケンカ四つの相手。
釣り手で背中を持つ形を得意とするレッセル選手に対して、永瀬選手は釣り手で前襟を突いて間合いを確保しようとしますが、レッセル選手は右手で永瀬選手の釣り手の袖を内側から押し切り、その手を手繰って釣り手で背中を持ってくるという組み手技術を使ってきました。
レッセル選手のこの組み手に、永瀬選手は苦しめられます。
組み手で相手だけが持っていて、こちらはどこも持っていない状況というのは極めて危険ですので、ひとまず永瀬選手は引き手を確保し、相手が手繰っているこちらの釣り手を離すまで我慢。
相手が(持ったままだと片襟「指導」なので)こちらの釣り手を離したら、フリーになった釣り手で内側から相手の前襟を突いて間合いを確保するのですが、レッセル選手も攻防の中で引き手が自由になると、すかさず前述の手順でこちらの釣り手を切り、手繰ってきて、再び劣勢という流れ。
延長に入って二つ目の「指導」が永瀬選手に与えられ、追い詰められます。
しかし、この辺りから永瀬選手も、このままでは分が悪いと思ったか、あるいは元々後半勝負の作戦だったのか、組み手を変えてきていました。
釣り手で背中を持ってくる相手に対して、永瀬選手も釣り手で相手の背中を持って応じるシーンが見られるようになります。
本来であれば、背中を持ち合って間合いが詰まる状況はレッセル選手の土俵なのですが、永瀬選手は持ち前の懐の深さでレッセル選手の技をことごとく凌ぎ、逆に内股などで反撃します。
序盤は、相手の得意の形を避けるために前襟を突いて間合いを確保することに労力を費やし、逆に後手に回ってしまう状況でしたが、お互いに釣り手で背中を持ち合う形で勝負に出た事によって、形の上では五分の状態となり、反撃できるようになったと考えられます。
延長2分30秒を回った辺りでレッセル選手、自分有利の形まで追い込んでおきながら決定打を打ち込めない焦りからか、釣り手で帯を持っての内股で深追いしようとしてきますが、これを永瀬選手が小外刈に切り返し、ビデオ判定の結果「技あり」で決着。
2回戦、3回戦は組み手で有利に試合を進めてきましたが、この準々決勝で組み手で劣勢の展開。しかし、懐の深さという、映像からは伝わり辛い永瀬選手の長所が生きた一番でした。