サブタイトルは「Dive in Wonderland」で、電脳世界の物語でもあるという二重構造を持った作品となっています。
ヒロイン・安曇野りせの祖母は名をなした実業家で、苦しいときに癒しとしてきたのがルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」でした。
祖母は最後の事業として不思議の国のアリスのアミューズメント館を建造しますが、完成を見ずに亡くなっています。
りせは就活中で、面接ではマニュアル通りの受け答えをしていますが結果は出ず、かなり疲弊しています。
ある日、りせはアミューズメント館のVR版「不思議の国のアリス」のモニタリングを行います。
という展開なので、描かれるのは「不思議の国のアリス」の登場人物を使ったイベント世界の物語で、
必ずしも原作通りに進行するわけではありません。
アリスをはじめとする各キャラクターはおそらく優れたAIで、参加者の個性に合わせた柔軟な対応を行い、ストーリーは無限に広がっていくのだと思われます。
近い将来にこのようなNPCと自由に会話できるゲームが作られて、
実際に楽しめるようになるのではないでしょうか。
キャラクターも従来イメージとは異なるものが多く、
特にハートの女王は「首を切っておしまい」が口ぐせではありますが、
これまでにない優雅な佇まいを見せています。
チェシャ猫はいろいろなアドバイスをくれる案内役的なキャラクターになっているし、
イモ虫はフォロワー数を気にするインフルエンサーです。
テスト版らしさを出すためか、カードの兵士の中にちょっとバグったようなのが混じっているのがご愛嬌です。
これまでのアニメや実写化に比べて毒気の少ない描かれ方がされているので
原作のコアなファンだったら物足りないかもしれません。
個人的にはちょっとお転婆で不思議な世界を明るく楽しむアリスとの冒険は、
なかなか魅力的で楽しそうに思えました。
でたらめさを楽しみ、自分らしさを肯定するというテーマは先日公開された「タローマン 万博大爆発」と共通したものを感じさせます。
アプローチの違いによって、これほど違う印象の作品が生まれるのかという面白さもありました。
おそらくりせの祖母は自分が癒されたような、心優しい空間としてこのVR世界を築こうとしたのでしょう。
そんな温かさが伝わってくる作品に仕上がっています。
この世界でりせは、一旦アイデンティティを失い透明化してしまいますが、
祖母との記憶やアリスとの会話などで自分らしさを取り戻して、
実生活でも生き生きとして暮らせるようになります。
予想された展開ではありますが、
さわやかで後味の良いものになっていました。
声優陣もなかなか見事な配役です。
特に戸田恵子は「機動戦士ガンダム」のマチルダも、
おばあさん役が上手くできるキャリアを積んだかと感慨深いものがありました。
これからもアンパンマンは頑張って続けてほしいです。