みなさん
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ハイエースが平和島に到着する
すっかり日も落ち
あたりは暗くなってしまっている
急いで積み替え場所に行くと
ほぼ積み込みは終了していた
「どこほっつき歩いてやがるんだ。もう終わっちまうぞ!」
背後から懐かしいおっちゃんの声が聞こえる
さっき電話していたはずなのだが
あまりにいろいろなことがありすぎて
時間の感覚が麻痺してきているようだ
急いで作り上げたプレゼン資料を手渡す
「さっき電話で伝えておいた内容。問題ないかな?
一応目を通しておいて」
「しょうがねーな。大事なお客さんの頼みだ。
見るだけ見といてやるか」
どうやら積み込みは終わったようだ
リーダーが駆け寄ってくる
「岡安さん積み込みOKだ!積み方見るかい?」
「そうだ!高輪から大事な追加を預かったんだ。これも積んでくれる?」
預かってきた垂れ幕を自慢そうに広げて見せる
「がんばれ!東北支店!!
高輪社員一同」
「おー!!!」
作業をしている男たちから
野太い歓声が上がる
「ケツ開けろ!」
※ケツ=トラックの後ろハッチ。業界用語
リーダーの指示が飛ぶ
閉じられていたハッチが再び開けられた
「ガム持ってこい!」
※ガム=ガムテープ。業界用語
「ケツだけ積み変えよう!」
そういうと荷台にさっそうと飛び乗り
荷台スペースギリギリまで来ている備蓄品を下ろし出した
「どうしたの?」
「垂れ幕があるんじゃ、積み方を変えよう!
現地でケツ開けた時に、みんなが感動するように仕込むんだよ!
こういうのって演出が大事なんだよ!」
そう言うとパズルを組み替えるように、器用に積み替えをした
ケツには垂れ幕がきれいに貼れるようスペースが整えられていた
走行中に荷崩れが起こらないようにしっかり左右が固定され
そこにガムテープできれいに垂れ幕が固定されている
リーダーは一人うなずくと
荷台から飛び降り
満足そうにハッチを占めた
そしておっちゃんの方を向く
「社長、ハッチ開けてみてください。現地で戸惑わないように少し練習しましょう!」
「馬鹿野郎そんなことはどうでもいいんだ。
荷物が流れないようしっかり固めてあるか
そっちの方が大事なんだよ!」
文句言っていた割には
二人で何度もハッチの開け閉めをして
しっかりと練習している・・
なんか楽しそうじゃん。
とっさにカメラを向ける
いまさらながら、この時の写真はこれだけ
もっと撮っておけばよかったな
今でも後悔している
「おっちゃん頼むよ!無理だけはしないようにね。ホントにね・・」
「おかちゃんよー。
湿っぽいこと言うんじゃねよ。
俺は俺の仕事をする!
それだけのことだ。
積んでる荷物のことは知らねーな。俺には関係ないね。
だけどよ。
擦り傷一つ入れずに完璧な形で納品してきてやるよ。
プロだからな。俺の仕事見せてやるよ。しっかり見ておけ!
じゃ。行ってくるぜ!」
おかちゃんって・・・
もう60はとうに超えている
いつ引退しようかなーが口癖だった
突然異動してきた新人の僕に
運送のイロハを教えたのは
おっちゃんだった
上司から
現場で経験つけてこい
と寝耳に水の異動
激しい現場とも聞いていたし
自分には合わないだろうし
しばらく我慢してすぐ異動だろうな
と考えていたが、
なかなかどうして・・
おっちゃんとは馬が合った
現場の毎日が楽しくて
大型トラックに同乗して全国のイベントを巡回して
地元のうまいものとか、たらふく食って・・
上司の悪口聞いてもらって・・
だけど
仕事はいつも完ぺきだった
たぶんペアを組んでミスは一度もなかったんじゃないかいな
ホントに完璧だった
そういうのって業界に伝わるんですよね
だから仕事はいつもおっちゃんとペアでのご指名
もちろん一番人気
でかい仕事いくつもやらせてもらった
でも
楽しい時間はあっという間に過ぎる
この業界で骨をうずめるつもりが・・
そこはサラリーマンの悲しいところ
これまた突然の社長室への異動
それでも再びこうして
おっちゃんと
しかも
これだけの大仕事ができるとは夢にも思わなかった
昔の楽しかった時代が頭をよぎる
そして
今ある目の前の現実
やっぱり年を取ったな
運転席に乗り込むおっちゃんが
いつもより小さく見えた
エンジンがおたけびを上げる
ライトが上がる
サイドのデコレーションライトも青白く
そして激しく点滅を始める
いまさらながら
ピカピカに磨き上げられた
テカテカのボディーに気づく
「おっちゃん!車仕上がってんじゃん!いいね!」
運転席からこちらを見て照れくさそうに微笑む
そして
前に向き直る
職人として
プロとして
決して妥協を許さない厳しいまなざしが
遠く仙台を見つめている
大きなボディーは
大きなエンジン音と共に
ゆっくりと動き出す
いざ仙台へ向けて!
続きは次回・・・
Written by Kaz Okayasu



