映像革命

1940年 監督/ アルフレッド・ヒッチコック

 ハリウッド黄金期の終わり、1940年に発表されたアルフレッド・ヒッチコック監督作品。
数十年ぶりに観直した作品ですが、その技術とセンス、そして変わらぬ面白さに改めて衝撃を受けました!

本国イギリスで実績を積んだヒッチコックがアメリカに招かれ、『レベッカ』と同じ年に製作した『海外特派員』は、アカデミー賞最優秀作品賞にノミネートされる程の高い評価を受けました(最優秀作品賞を受賞したのは『レベッカ』)
ふたつのセンセーショナルな作品を放ったヒッチコックの、その才能と実力をアメリカに知らしめるには十分過ぎる華々しいアメリカデビューでした。

ヒッチコックは本作で潤沢な予算を得た事により、これまで頭の中にあった構想のすべてを映像化する事が出来ました。その驚愕の映像は、ハリウッド娯楽映画の底上げをしたと言えます。
今なお褪せることの無い面白さと軽快なテンポは、現代人の映画鑑賞にも完全に通用するレベル。いや、むしろこれが80年前の作品かと、心から感動し称賛することでしょう!



【この映画の好きなとこ】

◾︎キャロル・フィッシャー  (ラレイン・デイ)
本作を面白くしているのが、敵対する父と恋人の狭間で揺れるキャロルの存在。時に傷つきながらも、信念で行動する逞しく魅力的なヒロイン。
ウルウルなズルい瞳

◾︎スコット・フォリオット(ジョージ・サンダース)
主人公ハヴァーストックを手助けするイギリスの新聞記者。沈着冷静、ニヒルな魅力で場を攫った名脇役。
カッコいいんですよこの人

◾︎傘
ヒッチコック作品で最も好きなカット。このカットを初めて観た時の興奮と感動は未だ冷めやらず。いかなる文豪でも、この場面を筆で表現する事は不可能。
逃亡犯を映さずしてその行方を映す

◾︎風車小屋
敵の隠れ家となっていた風車小屋に潜入したハヴァーストック。狭い屋内をフルに活かし、サスペンス描写が次々に展開される最初のヤマ場。
歯車に巻き込まれるコート
上から下から敵に挟まれ逃げ場を失うハヴァーストック

◾︎537号室 ※ネタバレ
敵に追い詰められたハヴァーストックが見せる、奇抜で鮮やかな脱出劇。スリルの中にユーモアを盛り込むヒッチコックの余裕!
部屋を抜け出すドキドキ場面
給仕、シーツ交換、靴磨き、窓拭きをいっぺんに呼び大混乱を仕掛ける!
ばいちー!

◾︎甲板のふたり
満室となった客船の甲板で毛布に包まるキャロルとハヴァーストック。プロポーズに繋がるロマンチックな場面を、スイートルームではなく敢えて甲板にするセンスがさすが。
こういうのいいね!

◾︎大聖堂展望台
ハヴァーストックを突き落とそうとする殺し屋。なかなかタイミングの取れないもどかしさと高まる緊張感。展望台の高さを強調すべく、落ちた帽子の演出も出色。
やっと2人きりになれたね❤︎


◾︎駆け引き

ヴァン・メア解放を要求するスコットは、スティーヴンの娘、キャロルを拉致したと告げ人質交換を持ちかける。この緊迫の心理戦は、本作で最も好きなシーンのひとつ。

そして、してやったりな驚きのオチ

◾︎告白 ※ネタバレ
国の為にスパイ活動をした事から、アメリカ到着と同時に逮捕されることを娘のキャロル告げるスティーヴン。親子の絆と深い愛が沁みる名シーン。

薄々気づいてはいたけど…

弁解はしないがお前にだけは誤解されたくない

◾︎墜落
旅客機墜落シーンは、現代の視点から観てもその豪速球的迫力に圧倒される。80年前の作品である事を誰もが忘れる瞬間。
海面にグングン迫る大迫力の映像
一気に機内に押し寄せる海水
海上の大スペクタクル!沈みゆく機体!
沈没を免れたキャロルとハヴァーストック
2人の無事を見届けたフィッシャーが取った行動は…

◾︎演説 
ラジオ出演するハヴァーストック。同時に飛び込んで来る第二次世界大戦の開戦ニュース。爆撃を喰らうスタジオで、実況を続けるハヴァーストックの熱いジャーナリスト魂!
なんて熱いラストシーン


ヒッチコックはサスペンス映画を得意とした作家ですが、本作は長い映画監督人生で見せた最初の集大成だと思います。スリル、サスペンス、ロマンス、ユーモア、アクションが盛り込まれた万人向けの娯楽作品です。

そして、映像の可能性を世界に知らしめた記念碑的作品でもあると思います。その新たな試みの数々は、是非ご自身の目で見て頂きたい…というかとても書き切れません!


第二次世界大戦前夜のヨーロッパを舞台にした緊迫感と並行するロマンスが、人生の儚さと人間の愚かさを浮き立たせます。そんな素晴らしい脚本だから、ラストシーンでは切なさもこみ上げて来ます。

つまり、あらゆる感情に揺さぶりをかけて来るんですよ『海外特派員』て作品は。




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