動物パニックという新ジャンルを作ったのもこの人。
1963年 監督/ アルフレッド・ヒッチコック
アルフレッド・ヒッチコック監督がこの作品を発表した時64歳。晩年に差し掛かった時期に新ジャンルを創造し、しかも自身の最高傑作との誉高い作品に仕上げるなんて、その創作意欲と情熱には頭が下がります。
この作品以降、 スティーヴン・スピルバーグ監督作品『 ジョーズ』を筆頭に、70年代は動物パニック映画が大流行しました。そして、このジャンルは一時の流行で終わる事なく、現在まで続く人気ジャンルとして確立されています。
幼少の頃より映画に親しんでいたボクが、「こんな見せ方があるんだ!」と感嘆…いや驚愕し、映画には様々な"演出"があることを知り、更なる深みにいざなったのも本作です。
そんなセンセーショナルなシーンが連続する『 鳥』は、ヒッチコック監督の最高傑作と名高い『 サイコ』の次に撮られているのですから、この時期のヒッチコックは、もうどうかしているとしか言いようがありません。
ヒッチコック作品で多数のスコアを提供した作曲家 、バーナード・ハーマンが参加していながら本作には音楽がありません。不快でおぞましい鳥たちの鳴き声を作成したのみでありながら、恐怖演出効果を最大限に引き出した点は大きな評価ポイントです。
画期的な技術と演出が詰め込まれた本作は、現代の視点から観ても褪せることがありません。『鳥』は、観るたびに"新しい"のです。
【この映画の好きなとこ】
◾︎ミッチを追うメラニー
◾︎アニーの片想い
ミッチの元カノで密かに想い続けているアニー 。ミッチと急接近するメラニーを見守りつつも、事あるごとに傷つく様がかわいい。
◾︎スズメ
室内の暖炉に突如現れた一羽のスズメ。メラニーが気づくも時すでに遅し。何百羽ものスズメが一挙なだれ込む、おぞましくも恍惚感に溢れたシーン。
◾︎ダンの家
死体にカメラが三段階で寄るジャンプカットや、車の砂煙で演出されたリディアのパニック心理など、名演出の連打で構成されたヒッチコックの面目躍如たる傑作シークエンス。
◾︎ジャングルジム
『鳥』といえばコレ。ジャングルジムにとまる一羽のカラス。そしてこのあと…。ホラー映画史上最も恐ろしいシーンのひとつ。
◾︎ブラックジョーク
ヒッチコックはおぞましい場面に、食を交えたユーモア(本作ではフライドチキン)でショックを和らげるのが上手い。ユーモラスなバンディ夫人の登場もいい息抜きに。
◾︎ガソリンスタンド
爆発まで緻密に重ねられるサスペンス。爆発を嘲笑うかの如く上空から見下ろすカモメのショットは、もはやエクスタシーの域。空を切る乾いた風の音は、さながら悪魔の息吹。
◾︎試されるミッチ
「夫が生きていれば…」。リディアの言葉で、自由奔放な独身貴族の生き方を見つめ直すことになるミッチ。このシーンにより、実は本作は三人の女性がミッチを成長させる為の物語だったのではないかと思わせる。
◾︎ラブバード
籠の中で佇むラブバード。この二羽は正常なのか?それとも凶暴化しているのか?どちらにもとれる顔つきに戦慄。ゾッとした!
◾︎籠城
◾︎破られた籠城
閉じ込められたメラニーが、鳥の一斉襲撃を受ける。『サイコ』のシャワーシーン同様、細かいカット割りで描かれる演出に、身体中を突かれる様な痛みが伝わってくる。
◾︎脱出
◾︎リディアとメラニー
メラニーを抱き寄せるリディアの眼差しが温かい感動的なエンディング。しかし、車を走らせたその先に何が待ち受けるのか。その不穏な光景が目に焼きついて離れない。
サスペンス映画の神様と呼ばれたヒッチコックが、『サイコ』に続いて撮ったホラー映画です。長い映画監督人生で発表したホラー映画は本作含め僅か二作品ですが、どちらもあらゆるホラー映画に多大な影響を与えた名作です。
映画を語る時、裏話にはまるで興味のないボクですが、本作にはどうしてもヒッチコックの愛憎が垣間見れます。美しい主演女優ティッピ・ヘドレンに入れ込んだヒッチコックは、叶わなかった自身の欲望と想いを、ラストのヘドレン襲撃シーンにあてたように思われるのです。そのおかげで『サイコ』のシャワーシーンにも劣らぬ、素晴らしいシーンが完成した訳ですが…。
本作は、そんな背景も含めてヒッチコックの狂気たる演出が存分に楽しめる作品です。いっそのこと、『サイコ』の製作過程を映画化した2012年の『ヒッチコック』に続く続編を、『鳥』の製作裏話で作ってもいいんじゃないですかね。ラストシーンもちょうど『鳥』を意識したカットでしたしね。
そんな夢想をさせるディープな魅力が本作にはあるのです。
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