アクション映画としても再評価すべき傑作
1959年 監督/ アルフレッド・ヒッチコック
1959年の公開当時、本作を鑑賞した映画ファンはどれほど驚いたことでしょうね。
数十年ぶりにアルフレッド・ヒッチコック監督の最高傑作のひとつに数えられる『北北西に進路を取れ』を観ました。数あるヒッチコック作品の中でも、実はそれほど面白いとは思わず、これまでに一度しか観ていない作品だったのですが…
あの時のボクは一体何を観ていたのか??
いや、そもそもホントに観たのか??
ってくらいスゴい作品でした。
ヒッチコックは、スピードとテンポを優先に作品を構築する映画作家という印象があったんですが、本作では作品世界に奥行きを生み出す間をたっぷり取っている印象があり、そこに新たな魅力を感じました。
そして、ギュウギュウ詰めされた傑作シークエンスの数々に、それぞれの独立したカラーを持たせながらも一本の糸に紡ぐヒッチコックの手腕に脱帽しました。
ヒッチコック作品で毎回感心させられるのが女優の撮り方です。ヒッチコックは女優を撮るのが本当に上手い!今回も例に漏れず、主演女優のエヴァ・マリー・セイントをより美しく撮っています。その美しさで2人の男を翻弄し、緊張感ある愛憎劇を生みました。
ヒッチコック得意の巻き込まれ型サスペンス映画の完成形であり、アクション映画の新たな一歩。136分なんかアッという間ですよ!
【この映画の好きなとこ】
◾︎レナード (マーティン・ランドー)
ヴァンダムの手下で冷静沈着な男。演じるランドーの個性による所が大きいが、その目つきと不適な笑みは一度見たら忘れられない。
◾︎謎の女
謎の女イヴが官能的で強い印象を残す。フェロモン全開でイヴを演じたエヴァ・マリー・セイントの完璧な役作りは、ファムファタールものを予感させる。
◾︎シェービング
ポーターに変装し列車を抜け出たロジャー。警察の追撃をどんな方法でかわすのか?ケーリー・グラントならではの軽妙さが場面を盛り立てる。
◾︎軽飛行機の襲撃
007シリーズ『ロシアより愛をこめて』に絶大な影響を与えたシークエンス。野鼠を執拗に狙う野鳥の如く、軽飛行機に性格づけをして描いたシーンは、もはや映画史の伝説。
◾︎オークション会場脱出
敵陣に出口を固められたロジャーが、会場を抜け出す為に取った奇策。警備員を殴りつつ謝りを入れるなどユーモアセンスも抜群。
◾︎再会の森
イヴの正体、真の目的を知ったロジャー。非情な任務と恋愛感情の狭間で揺れる2人を繊細に描いた。残酷ながらも儚く美しいシーン。
◾︎ヴァンダムの怒り ※ネタバレ
手下レナードから愛人イヴの裏切りを知らされたヴァンダムは、やり場のない怒りをレナードにぶつける。冷酷な悪人が愛憎から感情を乱す様を描いた名シーン。
◾︎マッチ
イヴに迫る危険を知らせる為、メッセージを書き込んだ紙マッチを投げつけるロジャー。それに気づかないイヴと、それに気づいてしまうレナード。どうなる!?
◾︎ラシュモア山
最後のステージをラシュモア山に設定しただけでも天才。巨大モニュメントと断崖絶壁で抜群の視覚的効果を生み出した。持てるアイディアの全てを詰め込んだクライマックス!
◾︎山頂から
ラシュモア山の崖で伸ばしたイヴの手が、寝台に引き上げるロジャーの手に繋がる鮮やかなジャンプカット!そしてエレガントな作品を締めるセクハラカット!
初見の如く心から楽しみ、改めてヒッチコックの才能に惚れ直した今回の鑑賞でした。
本作が無ければ、007シリーズもインディ・ジョーンズシリーズも無かったのかも知れません。それほど今日まで続くアクション映画への影響が見て取れます。
しかし、ヒッチコックのサスペンス、アクション演出術が継承されて来たアクション映画史において、本作を超える、或いは肩を並べる作品が一体どれだけあるのだろうかと考えさせられました。
多くの映画人が本作をリスペクトして来たように、その魂は現代の映画人にも受け継がれているんだなと感じずにはいられない特別な作品です。