天上界の天使の国、マシュという若い天使がいた。
若い天使たちの大半は、いつも数人の天使たちと集い、話をしたり教えあったりと
周りから見ていてもとても明るく楽しそうにやっている。
でも、マシュは他の天使たちに比べるとひとりでいることが多い。
マシュは、他の天使たちと集うことや楽しいことが嫌いなわけではない。
むしろ、面白がることが大好きだった。一人になっている時もひそかに楽しんでいた。
そんなマシュが、時折、とてもつまらなそうな顔をしていることがある。
そんな時は必ず、先生のような天使のミーザャに「翼の当番」を言いつけられる。
「翼の当番」とは他の天使たちの翼をきれいに整える当番だ。
それを言いつけられた期間は、マシュのところに
「翼を整えて」と言ってやって来た天使の翼を整えなくてはいけない。
どんな状態でも、一度はその翼に触れて、マシュにできることをする。
マシュは、ミーザャ天使に言われたとおり、その期間は、他の天使の翼を整える。
そんなマシュを見ていて、翼を整えに来た天使が
「マシュは丁寧に整えてくれるから マシュの当番のときは楽しみだよ」と言う 。
他の天使も言う
「マシュはこの仕事が合ってるんだろうな~、 翼整えてるとき、楽しそうだもんな。
好きなんだな。」と言う
マシュは、この当番を好きだとか合ってるとか、そんなことを思ってやったことがない。
だから、そんなことを言われても「う~ん…」と言うだけ。
でも、マシュは、翼を整え始めたら翼の持ち主がこれくらいでいいよと言っていても
どんなに小さなほこりでも、取らずにいられない。
ほんの小さく折れた羽でも、丁寧にまっすぐにしていく
真っ白に整えられた翼を見て、きれいだと感じる瞬間が、マシュの楽しみになっていた。
きらきらひかるきれいな真っ白な翼を見ているとうっとりとしてしまう。
そんなマシュのところに時折、
ミーザャ天使にとっての先生のような天使のローニュがやってくる。
そのローニュ天使の羽は、とても大きい。
翼全体が他の天使の7倍はある。
マシュは、いつも最初は、「うげっ」っと思う。
そして、仕方なくやり始めるとやりがいがありすぎて夢中になってしまう。
そんなマシュにローニュが話しかける。
「マシュは、この当番しかしたことがなかったのかな?」
マシュは、そう聞かれて
「当番をするようになって、初めはいろんな当番をしていたことがあったけど、
今は、いっつもこの当番ばかりを言いつけられてる」と答えた。
その返事を聞いて
「そうかぁ。マシュはこの仕事が好きか?ずっと、続けていく気はないか?」とローニュがマシュに尋ねる。
それを聞いてマシュは
「それは、翼を整える職人天使になるってこと?」と聞き返す。
「マシュが望めばそうなるな。当番は、あくまで当番だからな。
マシュも成長する。そうすれば、このまま続けさせるわけにはいかんからな。」
そうなんだ~と少し残念な感じで思いながら、ローニュの言葉をマシュは聞いていた。
「マシュは、新しいことは大半のことを面白がってやっていたよな。でも、すぐ飽きてしまう。
そして、自分が何がやりたいのか分らない。 …ということすら分かってなかった。
だから、つまらん顔がでる。」
そのローニュの話をマシュは手を止めずに聴いていた。
そのことが分かっていたローニュは、話し続けた。
「ミーザャは、そんなお前にいろんな当番をさせた。
そして、この翼の当番をしているお前が一番楽しそうな顔だったと思った。
それで、何度もこの当番をさせてみた。
ずっと変わらず楽しそうなお前の顔を見て
お前自身がそのことに気がついてくれるのを待っていた。
マシュ。・・・
自分の手に負えない翼をもった天使を
職人天使のところに何度か案内したことがあるだろう。
その職人天使のところで、修理を飽きずに見ていただろう。
そこにある道具がどんなふうに使われるか、知りたくて、ずっとそばに居て見ていただろう。
そんな、お前の姿を見て、職人天使が、道具の使い方や 翼の作り方を話してくれただろう。
その職人天使との出会いをミーザャがあの方に頼んだのだよ。
『マシュが本当に楽しいことと思って望んでいることなら
マシュにその先の手助けをしてくれる天使と出会わせてほしい』とな
マシュ。自分の気持ちをよく感じてごらん。自分の望んでることをよく聞いてごらん。」
ローニュのその言葉を聞いていて、
自分では気がつかずに、懸命に自分のやりたいこと、わくわくすること
ずーっとやり続けていたいと思えることそれを探していたことを
そして、それが見つからず、忘れ去ろうとしていた。
そんな自分の気持ちに気がつく・・・
マシュの目から知らない間に涙がこぼれていた。
「それでいいんだよ。あの方にその気持ちを聞いてもらいなさい。
そして、あの職人天使にもう一度会いに行きなさい。」
翼の整えられたローニュは、そう言って
マシュの前からいなくなった。