マシュは、翼の職人天使になった。
ローニュの言葉を聞いてから、 あの方のところに行き、自分の気持ちを話す。
そして、その後、すぐにあの職人天使に会いに来き、いろんなことを教わった。
そして、職人天使として、たくさんの時がたった。
仲間の職人天使も出来ていた。
そんな仲間と話をしていた時 、マシュが、突然、
「地上に降りた天使たちの翼はどうしてるんだろう? 誰か整えてるのかな?」と皆に聞く。
いつも、仲間と会うと、ほとんどの話題が、翼のことばかり だった。
特にマシュは、口を開くとそのことばかりだ。
そんなマシュが、ふっとそんなことを口にした。
そのマシュ言葉に一緒にいた仲間たちは互いに顔を見合せ、皆が首をかしげていた。
その中の一人の天使が
「聞いたことないよな。他の職人天使だったら知ってるかもな。」と言う。
他のみんなもうなずく。
マシュはそんな様子を見て、突然、
「いろいろ教えてくれた職人天使のところの行く!!」と言って立ち上がり
そのまま、皆をおいてその職人天使のところに向かった。
でも、あの職人天使を見つけることは出来なかった。
そして、ローニュなら知っているんじゃないかと思い、
その足でローニュのところに出かけて行った。
ローニュの姿を見つけたマシュは、
「教えて!地上に降りた天使たちの翼はだれが整えているの!?」と
ローニュの顔を見るなり聞いた。
ローニュは、ちょっとびっくりしたような笑顔で
「どうしたんだ?マシュ?」と言った。
マシュは、「どうしてもそのことが知りたい!」と言った。
「それを聞いてどうするんだい?」とローニュが聞き返す。
マシュは、「どうするって…。とにかく知りたい!!」と言った。
ローニュは、何かわかったような笑顔で
「地上に降りた天使の中には、翼を整える職人天使もいるよ。
その天使たちが、ちゃんと他の天使の翼を整えてるよ。」 と少し笑いながら答えた。
それを聞いていたマシュに、ローニュが
「マシュ。地上の天使たちの翼も整えたいと思ってるのかい?」 とマシュに聞いた。
マシュは、驚いた。
そんなことが自分にできるとは思っていなかったから
そんな風に聞かれると思っていなかった。
答えに困っている様子のマシュを見て、ローニュが言う。
「前にも言っただろう。自分の気持ちを聞きなさい。
そして、本当に望むことなら 、それをあの方に話してみなさいと…
マシュ、ここでは本当に望むことなら何でも叶う。
だから、自分の気持ちに耳を傾けなさい。いいね。」
そう言われて、マシュはローニュと別れた。
マシュは、もっとたくさんの翼に触りたいと思っていた。
そして、真っ白になった翼をもっとたくさん見ていたいと思っていた。
マシュは、地上に降りることを決める。
そして、あの方にその気持ちを聞いてもらいに行く。
マシュは、あの方に自分の気持ちを話した。
マシュが話し終わると
「わかったよ。行っておいで。そして、たくさんの翼に触れておいで・・・」と
あの方はそれだけを言うとマシュの前からいなくなった。
そして、マシュは、それからは、その時が来るのを待つだけになった。
そして、時が来た。
マシュは、地上に降りる時を迎えた。
そして、地上に降り立つ。
マシュはわくわくしていた。
地上がどんなところか、皆がどうしているのか
そんなことを思いながら、いろんな所を見て歩いた。
でも、天使の姿をしているものは、誰もいなかった。
何日も探し続けた。でも、見つからない。
そして、マシュ自身も自分の翼を感じることができなくなってきた。
それと同じようにして、自分が何をしに、ここにやって来たのかも忘れ始めていた。
そうして、月日が流れた。
マシュは、地上の日常に流されるようにして生活していた。
とても退屈なつまらない気持ちで生活していた。
ある時、マシュの住む街に背中に触れるだけで、体調を良くするという者が来ていると聞いて、
興味がわき、見に行くことにした。
その者は、広場の真ん中でそれをやっていた。
たくさんの人だかりの中、自分の目の前に立った者の背中に軽く触れる。
それだけで、触れられた者は喜んで帰って行った。
マシュは、人だかりの一番前に行き、それを食い入るように見ていた。
毎日通い、一日中それを見ていた。
そして、マシュは、どうやったらあんなことができるのか 、
毎日、毎晩、家に帰っても考え続けた.。
そのことにものすごく興味をひかれた。
そして、どうしても知りたいと思い、そのことを聞こうと決心して、
その広場に向かった。けれど、そこにはもう誰もいなかった。
いろいろとたずね歩いたけど、誰も知らなかった。
マシュは、ひどく残念に思った。少し、悲しかった。
それから、いつもと変わらない毎日を過ごしていた。
でも、マシュの中には、あの時に感じた、
「知りたい。やってみたい。」という気持ちだけは消えていなかった。
そんなある日、隣町に広場に来ていた者と同じようなことをしている者がいることを聞く
マシュは、いてもたってもいられずにそこに出かけて行った。
そこは、隣町の小さな家だった。
その中に入るとたくさんの者たちが順番を待っていた。
そんな中にまぎれマシュは、背中に触れている者をじっと見ていた。
そうして、毎日、毎日、通った。
そんなある日、マシュも背中に触れてもらうことになった 。
マシュは、背中を向け、ただ、黙って立っていた。
そんなマシュに、背中を触れながらその者は言った。
「毎日よく通って来ていたね。そんなに面白そうかい?私のやっていることが…」
マシュは、ちょっと恥ずかしくなって、「うん」とだけうなずいた。
そんなマシュの姿を、その者が 、少しうれしそうに思ってくれているように感じた。
少しして、柔らかい空気が流れた。
そして、マシュの後ろから
「マシュ、よく来たね。待っていたよ。君ならきっとやってくると思っていたよ。」という声が聞こえた。
驚いて、マシュは振り向いた。
そこには、マシュが翼の職人として、いろんなことを教わった職人天使の姿があった。
マシュは、その職人天使の姿を見て、地上にやってきた忘れていた気持ちを思い出した。
そして、皆の背中に翼がないということ
自分の翼もなくなっているということ
自分はどうしてここに来たのか分らなくなっていたこと
どうやったら翼に触れることができるのかわからないこと
マシュは、次から次へとその職人天使に聞いた。
職人天使は、そのひとつ、ひとつに丁寧に答えてくれた。
「マシュ、皆の翼が見えないのは、ここの風のせいなんだよ。
天上界に比べると私たちのここでの体も重いだろ。
それと同じに風も重いんだよ。
そんな重い風にあおられると、翼は折れてしまう。
折れなくても、一枚一枚の羽が傷ついてしまうんだよ。
だから、その抵抗を少しでも和らげるために
翼そのものを見えなくしてしまっているんだ。
でも、よーく見ていてごらん、よーく耳を澄ましてごらん
翼のあるところで風の音が変わるから
風の向きや速さが変わるから・・・」
そう言われて、マシュはじっと目を凝らし、耳をすませた。
何か良くわからない。でも、なぜだか信じられる。
そんなマシュの姿を見て、職人天使は笑いながら
「初めて会ったころのようだね。」と言った。
マシュはそんな職人天使に
「ここでも、自分は翼を整えることができるのかな?」と聞いた。
「そのためにやって来たんだろう。だったらできるさ。
他にもたくさんその為にやってきてる天使もいるしね。」
そう言う職人天使の言葉を聞いて
マシュは、以前会った広場での者のことを聞いた。
それを聞いた、職人天使は
「ああ、あの天使はもう帰ったよ。自分のやれることだけやってね。
あの時出会ったのも、マシュに自分の気持ちを思い出して
忘れないようにするためでもあったみたいだよ。
そして、ここに来るためにね。」
マシュは、その答えを聞いて安心した。
そして、「また、教えてもらえますか?」と尋ねた。
「もちろんだよ。そのために、こうして、また出会ったんじゃんじゃないか」と職人天使が笑顔で答えた。
そして、「それもこれも、あの方がしてくれたことさ。」と言うと職人天使は続けた 。
「翼の整え方は、前とは少しやり方は違うけど ・・・
ここは、少しだけ何もかもが重いっていうだけで、翼を整えるということには何も違いはないし、
今までと同じ気持ちでやっていれば、翼も同じように見えてくるし、感じられるよ。」
と言う職人天使の言葉を聞いていたマシュは、うれしくて仕方なくなっていた。
~おしまい~