インド5日目 ジャイプル→アグラー
『楽しまなければ…』
今日でジャイプル観光は終わりのため、10時にホテルをチェックアウトする。
ホテルのオーナーは、お別れにもかかわらず、怒った顔で「今度来る時は女の子連れて来い。いいな?」と脅してきた。
こんな感じでよく経営が成り立つものだ、と心配しながら次の目的地であるアグラーへと向かった。
道中は相変わらず、荒いインド式運転で、どこまでも同じような砂地だらけの景色の中を突き進む。
途中、何度も対向車とぶつかりそうになるので、心底疲れる。
そんな運転ばかりするからインド製の車には右サイドミラーが無いのでは?と妙に納得してしまう(事実、インド製の車には右サイドミラーが付いていない)。
途中、怪しいレストランでボられながら、独り寂しく135Rsもするターリーを食べ、ハリスに「もっと安いレストランに連れて行ってくれ。」と抗議していると、観光地“ファテープル・スィークリー”へと到着。
ファテープル・スィークリー(勝利の都)は、アグラーの南西39Kmに位置するアクバル帝の城跡である。
遷都からわずか14年で水不足という理由で放棄されてしまったため、建物全体からは生活感がまるで感じられない場所である。
しかし対照的に、そこで観光客を相手に商売してる者たちは生活感に満ち溢れているというか、富を得るために観光客にお金を使わせようと必死である。
当然、観光客の一人である俺の周りにも、物売りや自称ガイドたちが群がり、「ガイドいるだろ?俺にまかせろよ。ん?土産を買いたいのか?ポストカードもいるのか?」と馴れ馴れしく話しかけてくる。
最初のうちは無視していたが、勝手にガイドをはじめる者、時計やカメラをさわりだす者、卑猥な言葉を投げかけてくる者…とだんだんと収拾がつかなくなってきたので、やさしい言葉で丁寧にお断りすることに。
しかし、丁寧に断わり通じるなら、この国に煩わしさなど存在しない。
案の定、何の効果も無く、逆に「こいつ喋ったぞ。脈アリだな…」といっそう勧誘が激しくなるハメに。
普段は仏のような優しい心の持ち主である俺だが、さすがにこの騒ぎにはぶちギレで、「お前ら、しつこいんじゃぁ~!ボケぇ~!ついて来るなやぁ~!ゴルァ~!」と日本語で怒りをあらわにする。
今までのストレスが溜まっているせいか、そのひとことだけでは怒りがおさまらない。
全ての怒りを、学校では絶対教えてくれそうにもない英語を使い、周りにいるインド人にぶつけた。
すると、英語はさすがに意味が分かるらしく、プライド高きインド人たちも負けじと汚い英語で応戦してくる。
しばらくそんな感じで子どものケンカのように、お互いをけなし合っていると、騒ぎを聞きつけて城内の監視をしていると思われる、ライフルを持ったオッサンが怖い顔で近づいてきた。
さすがにこれには自分も、客引きのインド人たちも怖くなり、解散することに。
お互いこんな騒ぎで撃たれたくはない。
「ヤレヤレ…困ったものだ。」というジェスチャーをしながら、ライフルを持ったオッサンにスマイルを投げかけたが、内心ヒヤヒヤであった。
「やはりインド人とは友好的にしなければ…」と改心しながら見学していると、城内のモスクでイスラム教の祭りが行われていた。
インド人と仲良くしようと思い、少女達の写真を撮ってあげることに。
ファインダー越しに見る彼女たちの笑顔はとても輝いていて、すさんだ心が癒されるようだった…
写真を撮り、彼女たちに撮ったばかりの写真を見せてあげると、とても喜んでくれた。
しかし、「ダンニャワード(ありがとう)」と写真を撮らせてもらったお礼を言い、立ち去ろうとすると、彼女たちは一変し、「10Rs!!(10Rsちょうだいよ!!)」と、お金を要求してきた。
一瞬ヘコんだが、「ああ、大人が大人だから、子どもも子どもなんだな。これがインドかぁ…」と、妙に納得しながら軽く少女達をあしらい、ハリスの待つ駐車場へと戻った。
夕暮れに染まるファテープル・スィークリーを離れ、アグラー市街へと向かう。
市街へ入るとものすごい渋滞に巻き込まれる。
パレードの最中らしく、片側一車線が完全に塞がっており、もう片側一車線を対向車同士が、われ先にと言わんばかりに無理矢理通ろうとしている。
当然のことながら詰まる訳で、お互い「お前の車がさがれ!」とクラクションを鳴らし、運転席から身を乗り出しケンカしている。
この国には譲り合いの精神はないのか。
こんなことが日常茶飯事なので、ものすごく疲れる。
安らかな国、日本へ帰りたい…
嫌なものは見ない、嫌なことは考えないの精神でボーっと車に乗っていると、今晩泊まるホテルに到着。
オフィスで契約したホテル名と明らかに違ったが、クレームをつける気力も無く、そのまま「Rajputana Palace」という名のホテルにチェックインする。
部屋は電気を付けても薄暗く、シャワーも水漏れしていたが、そんなことはどうでもいいくらい疲れていたので、すぐベットに倒れこんだ。
2時間ほど寝てから、夕食に出かける。
連れて行かれたのは客が一人もいない怪しいレストランだったが、怪しかろうが、高かろうがどうでもよくなってきたので、そこで食べることにする。
ターリーを注文しボーっとしながら待っていると、日本人青年1名が入ってきたので声をかけ、一緒に食べることにした。
彼は東京の学生で、インド初日に見知らぬインド人に声をかけられ、家に泊めてもらったのはいいが、軟禁状態に陥り、1000Rsも払って釈放してもらったことや、今、ジャイプル・アグラーのツアーに800ドルも払って来ているということなどを話してくれた。
俺よりもかなりの額を騙されているが、ちっともヘコんでいる様子もなく、逆にトラブルをとても楽しんでいるように見える。
彼の話を聞きながら、すごく彼のことがうらやましくなった。
自分も旅行をある程度は楽しんでいるが、今ひとつ気持ちが盛り上がらない。
どこか冷めているのである。
彼を見習わなければ…
「お互い楽しい旅をしよう」と言い、握手をして別れる。
「旅を楽しむ」…単純な事だが、忘れかけていたような気がする。
この出会いは自分にとって、とてもいい勉強になったと感謝しながらホテルへと戻った。
何も辛い事を経験するために、わざわざインドまで来たのではない。
楽しい事を体験しに来たのだ。
このツアーが終わったら、自分の力で楽しみながら旅をしよう…と心の中で誓いながら一日を終えるのであった。