インド亜大陸旅行記 -11ページ目

53日目 バンガロール→412Km→ホスペット→20Km(バスで30分、8Rs)→ハンピ

『旅行者の価値観』


前日の悪路はそれほど長くは続かず、徐々にフラットな道をバスは走り出し、次の目的地であるHospetへ。
どこで下車すればいいのか分からず不安であったが、早朝にもかかわらず車掌が大声で「オイ!ホスペットだ!降りろ!」みたいなことを叫んだので、爆睡していても分かっただろう。
ホスペットで降りない乗客にとっては、ものすごく迷惑な声なのだが。

車掌と握手をしてバスを降り、ターミナルへ。
時刻は朝の5時半だったので、ハンピ村までのバスがあるかどうか分からなかったが、時刻表を見ていると「ハンピまで行くんでしょ?もうすぐバスが出るよ。」と、心優しい運転手がわざわざ声をかけに来てくれた。
早朝から路頭に迷わずに済んだ。

運転手に教えてもらったバスに乗り込むと、車内は真っ暗だった。
出発前だから電気を消しているのだろうと思ったが、兄ちゃんが一人、バスの床下にもぐり込んで修理している。
どうやら電気系統のトラブルらしい。
兄ちゃんは懐中電灯でパネルを照らしながらガチャガチャと修理していたのだが、どうもうまくいかないらしく、どこかへ行ってしまった。
すると、今度はそれを座って見ていたオッサンが誰も許可もなく床下にもぐり込んだ。
どう考えても、そのオッサンは乗客である。
勝手にいじって壊してしまわないかとヒヤヒヤしながら見ていたが、ガチャガチャとパネルを触り、見事に修理して車内灯を点けてしまった。
インド人は皆、機械に詳しいのだろうか?

車内も明るくなり、修理したオッサンを「Good Job!」と誉め称えていると、最後尾のシートに座っていた欧米人の姉ちゃん達に話しかけられた。
お前のパスポートが何やら…とか言われたのだが、さっぱり意味が分からなかったのでショッパイ顔をすると、「こりゃダメだわ」と言わんばかりのリアクションをされ、席に戻っていった。
何の事なのかすごく気になったが、真意を知る術も無い。

5分後、バスはホスペットのバスターミナルを出発。
真っ赤な朝焼けに染まりながら、長閑な農村地帯を走り抜ける。
日本で“インド”というと、騒がしい町の風景が紹介されるのが普通であるが、日本人はそれを見て、「インドという国は、どこに行っても人が溢れ、喧騒に満ち溢れているんだな。」と思ってしまうが、インドの大部分はとても長閑であるし、人々も穏やかで、喧騒である場所は一部にすぎない。
この穏やかさは、5千年前から変化していないであろうし、今もそうであり、これから先も変わらないものだ。
何も変わらない…変えようとしないのがインド文化の本質なのかもしれない。

車窓から見えるサトウキビ畑を眺めながらそんな事を考えていると、バスは世界遺産の村、ハンピに到着。
荷物を背負って降りると、早朝にも関わらず客引きたちが群がってきた。
最初は丁寧に断わっていたのだが、だんだんと面倒になってきたので近くのチャイ屋に逃げ込んだ。
朝から客引きとマシンガントーク合戦をしたらお腹が空いてきたので、イドリーとチャイで軽い朝食を取ることにした。

空腹を満たしながらガイドブックで宿選びをしたり、店の兄ちゃんからハンピの情報を聞いていると、空が明るくなってきたので店を出る事に。
勘定を聞き、お金を払おうとすると、ものすごくボッタクリな値段を請求された。
イドリーは適当な値段だったが、チャイだけで18Rs払えと言うのだ。
ここまでインドを旅してきてあらゆる場所でチャイを飲んできたが、5Rs以上するチャイなど見たことがない。
明らかに外国人料金というのは分かるが、この値段はひどい。

店のマスターを呼び、この値段はどう考えてもおかしいと抗議したのだが、受け入れてもらえない。
最初は笑顔で「10Rsなら払うけど、18Rsは払えないよ。」と交渉していたのだが、だんだんとマスターの態度にむかついてきた。
英語で定番の捨て台詞を吐くと、マスターも負けじと応戦してきた。
その後もマスターはカンナダ語(現地の方言)と英語、俺は日本語と英語を使い、お互いに罵り合いを続けていたが、結局最後はブチ切れて14Rsを机に叩きつけて店を出た。

細かい金額にこだわり過ぎなのだろうか?
たかが1Rsや2Rsでも妥協しない方がいいのだろうか?
向こうの言い値に従うべきなのだろうか?
これだけ長くインドにいても、お金に関しては未だにどうすれば良いのかがよく分からない。

先ほど行った自らの愚行に悩みながらも、宿探しに出かける。
いくつかの宿で部屋を見せてもらい値段を交渉するのだが、バス(トイレ、シャワー)無しの宿が多く、バスルーム付きの宿だと高い。
村の北側に流れる川を御椀の船で渡ると、安宿があるのは知っていたが、その地域は主に沈没者が集うので、3日間だけの観光に来た俺には適さない。
仕方なく、汚い宿屋の中でもまだマシな“Gopy Lodge”という所に泊まることにした。

昼過ぎまで蚊帳の掛かったベットで爆睡。
気分爽快になった所で早速、ハンピ村観光に出かけた。

ここハンピは14世紀から16世紀まで南インドを統治していたヴィジャヤナガル王国の都。
岩だらけの荒れた土地に人為的に作られた都市であったが、イスラム勢力の破壊で多くの建造物は廃墟と化している。

岩だらけの小道を歩き、破壊された遺跡を見てまわる。
“破壊の美”とでも言うべきなのか、周りの荒野に破壊された遺跡が溶け込み調和している。

30分ほど歩きつづけると東の遺跡群最大の見所であるヴィッタラ寺院に着いた。
寺院内には“ミュージックストーン”と呼ばれる56本の柱が立っており、叩くと様々な音が響くのだが、叩く事は禁止になっており、警備員が見張っていた。
しかし、子ども達はそんな事はお構いなしで叩いており、警備員は子ども達を見つけてはせっせと追っ払っている。
自分も子ども達に雑じって警備員のスキを突いて柱を叩いてみたのだが、ちょっとくぐもったような不思議な音がして面白かった。
あまり叩きすぎると自分も警備員に追いかけられそうなので、適当な所でやめておいた。

観光を終えて宿に戻る途中、タバコ屋に寄り、インドで愛用している“ゴールドフレーク”というタバコを買った。
38Rsなのでお金を渡すと、店のオバちゃんに「40Rsだよ。」と言われた。
箱に38Rsという定価が書いてあるので、それを指差しながら「おかしいでしょ?ちゃんと商売しなよ。」と諭していると、その状況を傍で見ていたオッサンが俺に歩み寄り怒りだした。
おそらく、「お前はなんてケチな奴なんだ!」とでも言っているのだろうか?
反論しようと思ったが、オッサンの怒りが正気ではなかったので、その場を立ち去ることにした。

やはり、たかが数ルピーの事でケチケチするのが良くないのだろうか?
お金があるのだから、金持ち日本人として振舞った方が良いのだろうか?
お金に関する自分のスタンスにだんだんと自信が持てなくなってきた。

ハンピは、マハーバリプラムと何となく似ていて静かでゆったりとしており、長期滞在にはいい所である。
ゴアに近いせいか、旅行者の年齢層がマハーバリプラムよりも低い所が大きく違うだけである。

今日からハンピ村のフェスティバルが始まるはずであったが、隣町のHospetでテロがあったので、その影響で中止になってしまった。
祭りを楽しみにしていただけにとても残念である。