椚田のブログ  -50ページ目

辛口と甘口

今年最後の出張が終わる。
そうなればなったで、いつも名残惜しさがつきまとう。このままずっと旅の空でもいいと思えてしまうのだ。単に通勤地獄に戻ることへの拒否反応かもしれないが。

わりと運転が苦にならない方だ。あるいはそういう体になったのか。
それでも睡魔に襲われる昼下がりや、最後の商売を終えてホテルまで150キロ移動の夜などは、なかなかこたえるものがある。

そんなとき、頼りになるのは音楽だ。
今回は全曲シャッフルに凝っている。古いスマートフォンに1000曲ほど入っているのだが、好きなものばかりなので楽しい。しばらくぶりに聴くことで新たな発見があったりもする。

強烈な目覚ましになってくれたのは、マイルス・デイビスの『ソー・ホワット』。いくつかバージョンがあるが、これはライブアルバム『フォア&モア』版である。
本曲の初出は名盤『カインド・オブ・ブルー』で、これはどちらかというとスピーカーに相対し、姿勢を正して聴くタイプのジャズだ。いや、そんなことする必要は全然ないけどね…

このライブ版はテーマ以外、実質原型をとどめていない。マイルスのトランペットも、メロディーを超越した意味不明なフレーズに終始している。
それはもう眠気が吹き飛ぶどころか、必要以上にアクセルを踏む右足に力が入ってしまうほどの凄まじいドライブ感である。

これはやはりトニー・ウィリアムスのスピード感あふれるドラムによるところが大きい。脳髄に食い込むシンバル、炸裂するスネア。もう数限りなく語られてきただろうから、この上ことばを費やすことは避けよう。



次は、通行量も少なくなった夜更けの名神高速ですっかり癒された件。

久方ぶりに耳に入ってきたのはジョニ・ジェイムスの『オール・オア・ナッシング・アット・オール』だ。
彼女はジャズシンガーではないのだが、スモールコンボ(p.b.ds)をバックにスタンダードを歌った例外的なアルバムが『アフターアワーズ』である。特筆すべきはリズムセクションがかなりゴリゴリのハードバッパーである点。
一曲目のイントロから、ただならぬテンションでジョニを鼓舞する。

ジョニはジョニですごく頑張ってはいるのだが、やたらビブラートが綺麗だったりと、ミスマッチが微笑ましい。
普段ストリングスをバックに甘ったるいナンバーを歌っている彼女の声は可憐であどけなく、ぶりっ子(古いな)一歩手前と言えなくもない。

『アイル・リメンバー・エイプリル』の58秒目に出てくる「alone」という言葉の「ne」の発音など、何百回聴いても萌え死んでしまう。

極め付けは高速で演奏される「ジャスト・ワン・オブ・ゾーズ・シングズ」で、疲れたのか、ところどころ音程が下がってしまっている。また、ピアノソロの後の出だしがわずかに遅れて歌詞が窮屈になり、少し笑っている空気感が伺えるのだ。こういったところが本当に可愛らしい。このテイクにOKを出したプロデューサーに敬意を表したい。

彼女の名誉のために書くと、間あいだに挟まれるスローナンバーは、さすがに安定感抜群である。
また、ライナーノートが手元にないのでウロ覚えだが、確かパーソネルが変わるB面はバックが比較的伴奏的であり、ジョニの歌も破綻がない。

でも、後ろから追い立てられることでいっぱいいっぱいになり、ちょっと「トロい」感じを醸し出しているジョニこそが愛しいのである。

というわけで、『アフターアワーズ』はA面に限る! という話。









ストレート

世界が終わる日に何を食べたいか、という質問がある。
食べ物はいらないので、グラスになみなみ注がれたウイスキーが欲しいと答える。

大学時代、先輩の部屋で出された湯飲み茶碗のストレートが原体験で、以来割るということをほとんどしない。強いわけでも、カッコつけているわけでもない。なぜかこのときのぬるいレッドが基準となってしまった。

ストレートはキツ過ぎて…という方は多いと思う。でもワンショット(30ml)を20分かけて飲むとしたらどうだろう。当然ゴクゴクとはいかない。舐めるのに近い。

安くなるほどにアルコールのツンと来る刺激が強いので、ちょっぴりいいスコッチで試すといいかもしれない。シーバスリーガル12年はストレートで飲むのに適していると思う。

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たいていのスーパーに2,300円前後で置いてある。ワンショット100円程度と考えたら、そう高くはない。

しっかりと食事をとったあとに、ツマミは無しで。
シーバスはこれ自体がスイーツのようなウイスキーである。


また変なシリーズ始まったね。


組曲 (SUITE)

41枚目となる中島みゆきのアルバムが先日発売された。レコード屋さんで予約して取りに行き、ポスターをもらうという由緒正しい買い方をする。

息を吹き返した6と、iPodとして使用している3GSに落とし込んで出張に出た。

これは傑作だと思う。

はなはだ身勝手な私見だが、以下に第一印象を記す。


1.36時間
いきなり泣かされる。曲調が耳に新しい。破綻や枯れとスレスレの唱法は、言葉を強く浮き立たせている。

2.愛と云わないラブレター
らしいメロディー。詞は身に覚えがある。

3.ライカM4
かつての『蕎麦屋』に続き、二度も歌にされたタムジン(デビュー以来彼女を撮り続けている写真家)に嫉妬を覚えるのは僕だけではないだろう。

4.氷中歌
本曲と『もう一度雨が』が、このアルバムのムードを決定づけている。フィクションとして聴けないほど作り手の孤独が横溢している。

5.霙の音
男には怖い歌で、それはもう逃げ出したいほど。でもこういう曲を歌い続けてくれるのは嬉しい。

6.空がある限り
まだ解釈できていない。7に続く感じがあるので、組曲というアルバムタイトルにあって何らかのキーのようにも思える。

7.もう一度雨が
当たり前の夢を見ることの難しさを繰り返し歌ってきた彼女の痛みがダイレクトに伝わり、苦しくなってしまう。

8.Why & No
これは同調圧力への抵抗と素直に読んでいいだろう。5につながるのかも?

9.休石
初めて聴いたとき死をイメージしてしまい、抜け出せないでいる。受け取り方として合っているのか誤っているのか、まだ分からない。

10.LADY JANE
スタンダードの風格を持つ曲だし、そのようにアレンジされていて楽しい。重く寂しい印象のアルバムを最後にすくい上げているが、世の移ろいを鋭く憂いてもいる。


がなり系の唱法が影を潜め、前々作の『風の笛』あたりからキーの高い曲が増えている。これによって歌が透明感を帯びてきたと感じる。
少し前の『雪傘』や前作の『ジョークにしないか』のような、言葉を置きに行く歌い方が色々な形をとって出てくる。
これらは既存の歌の巧拙を超えたものであり、ここに至ってまだ進化し続けていることに驚きを禁じ得ない。