辛口と甘口 | 椚田のブログ 

辛口と甘口

今年最後の出張が終わる。
そうなればなったで、いつも名残惜しさがつきまとう。このままずっと旅の空でもいいと思えてしまうのだ。単に通勤地獄に戻ることへの拒否反応かもしれないが。

わりと運転が苦にならない方だ。あるいはそういう体になったのか。
それでも睡魔に襲われる昼下がりや、最後の商売を終えてホテルまで150キロ移動の夜などは、なかなかこたえるものがある。

そんなとき、頼りになるのは音楽だ。
今回は全曲シャッフルに凝っている。古いスマートフォンに1000曲ほど入っているのだが、好きなものばかりなので楽しい。しばらくぶりに聴くことで新たな発見があったりもする。

強烈な目覚ましになってくれたのは、マイルス・デイビスの『ソー・ホワット』。いくつかバージョンがあるが、これはライブアルバム『フォア&モア』版である。
本曲の初出は名盤『カインド・オブ・ブルー』で、これはどちらかというとスピーカーに相対し、姿勢を正して聴くタイプのジャズだ。いや、そんなことする必要は全然ないけどね…

このライブ版はテーマ以外、実質原型をとどめていない。マイルスのトランペットも、メロディーを超越した意味不明なフレーズに終始している。
それはもう眠気が吹き飛ぶどころか、必要以上にアクセルを踏む右足に力が入ってしまうほどの凄まじいドライブ感である。

これはやはりトニー・ウィリアムスのスピード感あふれるドラムによるところが大きい。脳髄に食い込むシンバル、炸裂するスネア。もう数限りなく語られてきただろうから、この上ことばを費やすことは避けよう。



次は、通行量も少なくなった夜更けの名神高速ですっかり癒された件。

久方ぶりに耳に入ってきたのはジョニ・ジェイムスの『オール・オア・ナッシング・アット・オール』だ。
彼女はジャズシンガーではないのだが、スモールコンボ(p.b.ds)をバックにスタンダードを歌った例外的なアルバムが『アフターアワーズ』である。特筆すべきはリズムセクションがかなりゴリゴリのハードバッパーである点。
一曲目のイントロから、ただならぬテンションでジョニを鼓舞する。

ジョニはジョニですごく頑張ってはいるのだが、やたらビブラートが綺麗だったりと、ミスマッチが微笑ましい。
普段ストリングスをバックに甘ったるいナンバーを歌っている彼女の声は可憐であどけなく、ぶりっ子(古いな)一歩手前と言えなくもない。

『アイル・リメンバー・エイプリル』の58秒目に出てくる「alone」という言葉の「ne」の発音など、何百回聴いても萌え死んでしまう。

極め付けは高速で演奏される「ジャスト・ワン・オブ・ゾーズ・シングズ」で、疲れたのか、ところどころ音程が下がってしまっている。また、ピアノソロの後の出だしがわずかに遅れて歌詞が窮屈になり、少し笑っている空気感が伺えるのだ。こういったところが本当に可愛らしい。このテイクにOKを出したプロデューサーに敬意を表したい。

彼女の名誉のために書くと、間あいだに挟まれるスローナンバーは、さすがに安定感抜群である。
また、ライナーノートが手元にないのでウロ覚えだが、確かパーソネルが変わるB面はバックが比較的伴奏的であり、ジョニの歌も破綻がない。

でも、後ろから追い立てられることでいっぱいいっぱいになり、ちょっと「トロい」感じを醸し出しているジョニこそが愛しいのである。

というわけで、『アフターアワーズ』はA面に限る! という話。