Observing China -50ページ目

中豪衝突:オーストラリア主犯説

リオ・ティント事件以降、ラビア・カ-ディル訪豪、中国外務次官の訪問キャンセル……と、ごたごた続きだった中豪関係が、ペトロチャイナによるオーストラリア西岸の天然ガス買収合意でようやく一服した、とメディアが報じている。曰く、このタイミングでの合意発表は両国の関係改善につなげる狙いがある、と。まるで痛みわけだったような印象を受けるが、果たしてそうか。

そもそも、今回のプチバトルをしかけたのはどちらなのだろう。遡ればきりがないが、リオ・ティント事件を起点としてみれば、原因はオーストラリア(リオ・ティント)側が中国側(チャイナルコ)の買収提案を土壇場で蹴っ飛ばしたことにある(その後の国家安全部の「スパイ狩り」と、リオ・ティント側の当事者であるスターン・フーの好人物ぶり<の報道>によってすっかり中国が悪者扱いされているが)。

たまたま起きたウイグル騒乱を生かして、カーディル訪問を受け入れることで国際社会にうまくアピールしたのがオーストラリアなら、8月4日にはとっくに決まっていた外務次官の何亜飛の訪豪中止を、液化ガス合意発表の直前になって突然リークしたのもオーストラリアだ。

液化ガスの場合、明らかに強い立場にあるのは成長エンジンを止めることができない買い方(中国)ではなく売り方(オーストラリア)だろう。なんとしても天然ガスを買い付けるためだったかどうかは不明だが、中国政府はリオ・ティント事件の位置づけを国家秘密のスパイ事件から単なる商業スパイ事件へと格下げした。

星取表をつけるならオーストラリアの5勝0敗である。同国首相のラッドは「耳クソ食べ男」(あ~胸が悪い)として有名だが、Youtubeでは元中国担当の外交官として流暢な中国語を話す姿も見ることが出来る。07年の当選当初は「中国のイヌ!」扱いもされていた中国名「陸克文」、どうしてどうして中国人との「討価環価」を知り尽くしたシノロジストであるらしい。

ラッドが展開を完全に読みきって今回の騒動を仕掛けたとは思えない。ただ「文明の衝突」理論に従うなら、今後も中国とのバトルの機会は増えるはずで、中国政府はその思わぬ手ごわさに喫驚しているのではないか。日本の「中国通」のセンセイ方は、その耳のアカでも煎じて飲んでもらいたい(笑)。

「一位老同志」は万里なのか(その2)

問題の記事に、ヒントはある。「国慶60周年前夕一位老同志的談話:執政党要建立基本政治倫理」の冒頭で、この作者は「私は以前に宣伝・報道の類の仕事をしたことがない」と書いている。この発言が真実とすれば、喬石と谷牧はかつて宣伝関係の仕事をしたことがあるのでアウト。また、文章の中盤に「80年代初めに中央書記処を主宰した老同志と会ったとき…」という記述が出てくるが、喬石は83年から84年まで中央書記処主任を務めていた。とすると、残りは田紀雲、ということになる。

博訊網が万里と言い切っているわけだから、やはり万里なのかもしれない。ただ、文中で引用されている「80年代初めに中央書記処を主宰した老同志」の「遺憾なのは、党の歴史上の重大な冤罪案件を再評価できなかったこと」という発言は、喬石(あるいは他の誰か)よりむしろ、6・4当時カナダに外遊中で学生運動を「愛国的」と擁護した万里にこそふさわしい気がする(喬石?の口を使って勝手に自分が言いたいことを書いたのかもしれない)。

この文章には、習近平の軍事委員会副主席就任が焦点になる次の4中全会を少なからず揺さぶる狙いがあるのだろう。記事は、開かれた政治を求めると同時に、過ぎ去った革命の時代へのノスタルジー(と、革命世代を蔑ろにしている現政権への当てこすり)に貫かれている。単純に考えて、「天安門で弾圧した側」に立場が近ければ近いほど、この文章がイタいはずだが、より「天安門で弾圧した側」が「そうでない側」に仕掛けたイヤガラセと読めなくもない。

あるいは本当に単なる老人のグチ、なのかもしれないが。
(この項終わり)

「一位老同志」は万里なのか(その1)

いささか旧聞の類に属するかもしれないが、7月末から8月初めにかけて博訊網が数回にわたって「国慶60周年前夕一位老同志的談話:執政党要建立基本政治倫理」という文章を更新した。この文章、政府系メディア(香港の中通社だが)が14日に「反論」したことで俄然、信憑性が高まっている。

過去の実例からみて、中共が強く反論すればするほどその記事なり資料の真実性は高い――という仮説は成り立つと思う。根拠薄弱な推論記事であれば、彼らはまったく相手にしない。前者の代表が李志綏の「毛沢東の私生活」、後者の実例がユン・チアンの「マオ」である。

さて、この香港中通社の「言力」氏の記事は「この老指導者とその家族をよく知る知己」の「文章は完全に捏造されたものだ」という言葉を冒頭に引用している。これに対して、かの「氷点週刊」の李大同が「作者が誰か誰も語っていないのに、どうして『知己』が(作者について)確かめることができるんだ!?」と、さすがの突っ込みを入れている。

博訊網は2日、記事を提供した人物の説明として、この「老同志」が万里であることを明かしている。元全人代委員長、「四川の趙紫陽、安徽の万里」と評され、何より6・4事件で趙に同情的だった万里なら確かに作者足り得るかもしれない。だが彼は今年93歳である。93歳のオジイサンが1万字分も語れるのかと思うし(テープをこの文章に起こしたのだとすると、元のテープではこの倍近く喋っているはずだ)、内容も結局のところ「政治の公開性の実現」に終始していて、万里にしてはキレがないようにも感じられる。

ネット上では、万里のほか元副首相で趙紫陽の四川時代の子飼いだった田紀雲、党総書記レースで江沢民のライバルだった喬石、元政協会議副主席の谷牧が「容疑者」扱いされている。万里でないとして、この4中全会前のこの時期に六尺玉を落としたのは、誰なのか。
(続く)