Observing China -48ページ目

空母建造は現代の大躍進運動か

世界的スクープを連発している朝日新聞の「10年に一度の記者」(By週刊新潮)、峯村健司記者が先週、また中国空母ネタの1面スクープ記事を放った。昨年12月30日の「中国、初の空母建造」、今年2月13日の「中国が原子力空母」に続く中国空母ものだが、一連の報道で朝日(というか、峯村記者)は世界の他のメディアの追随を許さない独走状態を続けている。飛ばし記事かというとそうでもなく、いずれもディテールがしっかり書き込まれていた立派な内容である。

2015年までに5~6万トン級中型空母2隻、2020年以降に6万トン規模の中型原子力空母2隻を中国海軍が就役させるつもりなのはどうやら間違いなさそうだ。4隻という数も、空母の運用へ向けた人民解放軍の本気度をうかがわせる。示威力として使うだけなら1隻でいいのだが(例:ブラジル、インド、タイ!)、実際に空母1隻を動かすには、バックアップ用として最低2隻から3隻の同型艦が必要とされるためだ。

核兵器を除けば、戦闘機を満載した航空母艦は今なお単独で最強の攻撃力を有する兵器である。ただその防空力・対潜防御力は低く、作戦行動の際にはお供の護衛艦や補給艦を引き連れて大名行列が必要。艦載機の保守・点検やパイロットの訓練にも莫大なコストと労力がかかる。要するに相当なぜいたく品なわけだが、国民1人あたりGDPが購買力平価でもいまだに100位前後の中国が、そんな「大人のオモチャ」を持てるのだろうか。

■□ブルッキングス研究所が投げかけた疑問□■

米ブルッキングス研究所のピーター・シンガーという研究者が7月、「中国の巨大な粗悪空母を恐れるのは誰だ?」という文章をアップした。データの引用もなく、論文というよりエッセー的な内容だが、「空母建設には米海軍でも1隻6年かかる」「中国海軍の国産艦船で最大のものは1万7000トンしかない」という事実を根拠として、今後10年で中国が空母4隻を保有するのは不可能、中国空母恐れるに足りずと結論づけている(注:正確には中国が4隻保有するようになるのは2020年以降)。

10万トン級の米原子力空母と中型空母の建造年数が同じとは思わないが、中国が空母建造初体験であることをかんがみれば、やはり1隻6年近くかかると思う。2015年までに中型空母2隻を完成させるためには2隻の建造を同時並行で進めなければならないはずだが、峯村記者の記事はその点には触れていない。かてて加えて、原子力空母2隻もほぼ同時並行的に造ることが可能とは到底思えない(だから2020年「以降」なのだろうが)。

よしんばすべてがうまく行ったとして、2020年ごろに中国空母が小笠原近海に現れるようになっても、その中国空母が対面するのは米第7艦隊所属の空母打撃群である。Global Security org.というサイトが興味深い図を公開している。世界各国の航空母艦の上からみた図を並べたものだが、これを見ればアメリカの海軍力がいかに突出しているかが良く分かる。

西太平洋に常駐する米原子力空母は1隻(現在はジョージ・ワシントン)という状況が続くなら、細かいことを省けば同地域で相まみえる中国海軍と米海軍の空母数は1対1である。ただ、米空母の背後には2隻から3隻の即応可能な原子力空母が控えている。へとへとになって中型空母を4隻(実質1隻)造っても、待ち受けているのがヘビー級ボクサー×4みたいな戦いなら、あまりワリに合わない気もするが。

大躍進運動は「自力更生」「イギリスを15年で追い抜く!」というスローガンにとらわれ、土法炉という大愚行を生んだ。空母建設が現代の大躍進運動にならないことを祈りたい。

中国とビルマの不思議な関係

少数民族とビルマ(ミャンマー)国軍の武力衝突がニュースになっている中国・ビルマ国境を訪れたことがある。今から6年前の2003年春、場所は現在難民が流入している南傘鎮から西へ100キロほど離れた雲南省瑞麗市だった。

「麻薬のゴールデントライアングル地帯を自由貿易のゴールデントライアングル地帯にする!」というある意味ぶっ飛んだ構想をもっていた中国人研究者(とその弟子たち)に同行する半フィールドワーク・半慰安旅行的な旅だった。ただ、半分慰安旅行のいーかげんなフィールドワークでも、中国人先生が熱を上げている自由貿易構想が「ぶっ飛んで」いたことだけはすぐ分かった。ビルマがあまりに貧しかったからだ。

国境にあるトラック用貨物集積場は閑散としていて、スイカを載せたトラックが数台目の前を通るだけ。聞けば、スイカ以外で取り扱いがあるのはせいぜいビルマ産木材ぐらい。ビルマには木材以外売るものはなく、中国の工業製品を買うカネもなかった(03年の1人当たりGDP180ドル、ちなみにカンボジア310ドル、アフガニスタン450ドル)。

そして世界の貧困国の例に違わず、ロクに売るものがない国が売るもの――麻薬、ギャンブル、売春――が中国人向けに販売されていた(売春は未確認)。夜、瑞麗市の自由市場に行くと売人が擦り寄ってきて半ば公然とヘロインを売りつけてきた。同市付近の国境に設置されたフェンスには立派な穴が開いていて、その先のビルマ側には、金持ちの中国人ならビザなしで行ける銀色のギャンブルタワーが燦然と輝いていた。

□■気味が悪い仲良し関係■□

中国はほぼすべての周辺国と国境紛争を繰り広げてきた国だが、その唯一といっていい例外がビルマである。新中国成立後、朝鮮戦争で米帝との本格戦争の恐怖を骨身にしみて感じた中国は、「ソ連一辺倒」の外交方針に加えて1954年にインド、ビルマと「平和五原則」を結び、西側の包囲網に対抗しようとした(インドとはその後仲たがいした)。互いを利用するメリットを認めた中国・ビルマは国境問題を相互譲歩して解決。以来、ほぼすべての周辺国が軍事衝突を起こしてきたのに、ただビルマだけが中国と安定した友好関係を維持してきた。

友好関係を維持しているため、両国の国境管理は非常にテキトーで、外国人旅行者でも短時間ならヤミでビルマ側へ行くことができた。89年の6・4事件のときも雲南・ビルマルートは逃亡学生の有力な脱出経路だったらしい。

管理がテキトーだから、たまにはビルマから爆弾が飛んでくる……というわけでもあるまいが、国境付近の住民にはあまり「中国側」「ビルマ側」という意識がない、とも聞いた。曰く、穴だらけのフェンスをくぐって、しょっちゅう行き来しているのだという。

□■ビルマが「小さな中国」に?■□

ビルマの少数民族は細分すると135族もいる。支配するビルマ族はわずか約70%しかおらず(55民族を94%の漢族が支配する中国と比べた場合だが)、中には公然と武装している民族もいてその統治はより過酷だといえよう。おまけに「民主化問題」に足元をすくわれかけてもいる。だから中国政府は最後までビルマ軍事政権の理解者であり続けるだろう。たとえ、国軍の攻撃対象が漢族にルーツをもつ少数民族だったとしても、だ。

そして、民主化がなっとらん、と世界中から経済制裁の総スカンを食らっているビルマだが、ここへきて韓国・大宇がビルマ沖のガス田で採れた天然ガスを向こう30年間、中国に売ることになった。

世界的なデタントの流れがビルマに及びつつある、ということなのだろう。ただ中国から流れ込むカネが「南の北朝鮮」ビルマをどれくらい変えるかは分からない。ガス代の大半はネピドーのパゴダ建設費と軍事政権幹部のメルセデス・ベンツ代に消えて、「小さな中国」が新たに出来上がるだけかもしれない。

ダライ・ラマがインドを追い出される日

ネパールは、ブッダの母国カビラバストゥがかつてあったとされる国である(インド説もあり)。仏教の祖国といってもいいはずのネパールだが、「仏教国」であるチベットには意外と冷淡で、昨春のチベット騒乱では中国に対する抗議活動をした在住チベット人を逮捕し、「中国に強制送還するぞ」と脅し上げた。

チベットに対するシンパシーが広がらないのは、仏教徒率の低さ(約10%、国教だったヒンドゥー教徒は約80%)もあるが、なにより大きいのは隣国・中国の圧倒的なプレゼンスだろう。ギャネンドラ前国王は05年のクーデターの際に中国の支援を期待して、カトマンズにあったチベット亡命政府の代表部を閉鎖した。現在、ラサに領事館をもつのは世界でネパールだけである。

ダライ・ラマ14世の亡命政府の最後の砦がインド北部ダラムサラだが、その雲行きが怪しくなってきた。ザ・タイムス・オブ・インディア紙が25日、チベット自治区外事弁公室主任、巨建華の「インドはラサに領事館を置くことができる」というコメントに根拠を置く記事を流した。

同紙の別の記事によれば、インド政府は当面は「その必要なし」という態度らしいが、05年のシン・温会談での国境問題の和解や近年のBRICsでの蜜月関係を考え合わせれば、長期的にはインドは「トゲ」を抜く方向に向かっていくだろう。62年の中印国境紛争以来、閉鎖されたままのインド共和国ラサ総領事館が再開されれば、それと同時にダラムサラ亡命政府は閉鎖に追い込まれる。

アメリカ議会下院も6月、ラサに領事館を開設することを目指す法案を可決したが、こちらはあくまで反中国活動の拠点としての領事館。「人権オバサン」ペロシのだんまり具合を見れば、11月半ばのオバマ訪中で議題になることは1000%ないはずだ。

もちろん、本来は異なる文明域に属する中印両国が今後、一直線に関係改善に向かうとは考えにくい。ただダライ・ラマ14世は今年74歳。国際社会がチベットと彼にシンパシーを覚えるのは何と言ってもそのキャラクターと行動力ゆえであり(地震見舞い名目で台湾にも行けることになった)、このまま何もしなければ亡命政府が「Xデー」後に国際的な生存空間を狭めることは火を見るより明らかだ。

ダライ・ラマなき亡命政府が、本当に“in exile”な状況に追い込まれる日はそう遠くないかもしれない。