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新華社が暴く「ヤミ監獄」

新華社系の週刊誌「瞭望」最新号(11月24日発売)が、腐敗告発の陳情のため北京を訪れた地方住民を人権無視で収容する「ヤミ監獄」の実情を暴く記事を掲載した、と英文メディアが騒いでいる。

「陳情ゼロ」(わが地方には社会的な不満を持つ人々はいないという証明)の体面を保つため、地方政府が自分の地域から北京に向かった陳情者を捕捉・捕獲・強制帰還させている実態は広く知られていたが、中国政府は公式には「(ヤミ監獄は)中国には存在しない!」という建前を貫いてきた。それが、よりによって「国営通信」の新華社系雑誌がその実態をリポートしたからさあ大変、なわけである。

記事自体は現場に潜入して生々しいエピソードや証言もとれている良い内容だと思うが(記者が実名を明かさず「捕獲要員」に取材しているのが業界のモラル的にいいかどうかは別にして)、読みどころはむしろさすが新華社系雑誌だけあって、この問題に関する初出データが盛り込まれているところだと思う。

記事によれば、北京で活動する各地方政府の「捕獲要員」はピーク時には1万人超にもなる(平時でも一つの地方政府で数十人)。沿海部の某省は(ピーク時には)1000人を超える人員と300余台の車を送り込むのだという。

また政府筋の調査によれば、各地方政府が北京につくったヤミ監獄は計73カ所にのぼり、うち46が「非経営性施設」(つまり、ホテルでも接待所でもない農民の貸家など劣悪な施設)、27がホテル、接待所などの「経営性施設」なのだという。

■□「捕獲の経費は1人200元」■□

「捕獲要員」たちのディテールに関しても興味深い情報が書かれている。北京南駅付近の旅館で拘束された河南省出身の陳情者M(女性)の証言によれば、「旅館の老板(社長)は地方政府に対して、1日あたり都市出身者200元、農村出身者100元の費用を請求していた」らしい。

100元は一般中国人にとっていまだに大衆食堂でメシが10回は食えるそれなりの大金のはずである。記事はこのほか、7~8つの地方政府向けに「陳情者管理サービス」を提供している会社の「(地方政府に請求する経費が)1人あたり1日200~350元」という証言も紹介している。

さらにこの記者は北京に来たばかりの地方政府職人になりすまし、国家信訪局付近で地方政府の人狩りを助ける会社を経営する“劉総”に電話して、「(捕獲する経費は)1日1人200元、地方政府には300~500元請求して差額を(記者ふんする地方政府職員が)取ればいい」という証言まで引き出している。

なかなかの取材ではあるが、なぜ今新華社がこの記事を世に問うたのか。「中央vs.地方」という中央政府にとって安全・安心な腐敗摘発スキームだから、どう転んでも新華社を含む中央政府にマイナスはない。安徽省出身の20歳女性がヤミ監獄の「看守」に強姦された事件の影響もあるかもしれない。ただ、それもなぜ今なのか、という説明にはならない。

10日ほど前にHuman Rights Watchが出した「中国のヤミ監獄は100カ所」というレポートに「100じゃなくて73!」と反論するためでもなかろうが。

中国初?言論テロの思わぬ影響

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河北省石家庄市の地元紙「河北青年報」の女性副編集長(↑)が21日、レンガを持った暴漢に襲われ、顔に8針縫う怪我を負った(↓)。記憶の範囲ではあるが、中国でジャーナリズムに対するテロが起きたのは(公的機関の事実上の“テロ”を除けば)初めてではないか。

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河北青年報副編集長の楽倩は21日夜8時ごろ、スーパーで買い物をしたあと自宅に戻る途中、家の玄関の前で30~35歳ぐらいの男に殴りかかられた。男は「叫你報!叫你報!(ひどい記事書きやがって!)」と叫んでいたという。同紙は11月初めからあるスーパーの商品の品質問題に関する調査報道を続けていて、「これ以上続けたら編集長と社長を殺す!」という脅迫電話や、社屋前での座り込みによる抗議活動を受けていたらしい。

■□「不満ガス」が行き場を失う■□

事案自体は被害も含めて比較的小さなものである。しかし、その影響は必ずしも小さくないかもしれない。

周知の通り、中国共産党はいま社会の間にたまった権力への「不満ガス」を、主に当局とそれに一体化したメディアによる腐敗取締りによって抜こうと努めている。老百姓(庶民)の不満のベクトルを党中央でなくあくまで地方権力レベルにとどめるためにも、地方権力の取締まりは今後も続けなければならない。だがその一翼を担うメディアがテロの影響で腐敗摘発を躊躇すると、取締りのスピードが鈍ってしまう。

だからこそ新華社が熱心に今回の事件を報道しているわけだが、テロの有効性が実証されれば、「黒社会」はためらいなく今後も暴力を使ってメディアの封じ込めを図ろうとするだろう。河北青年報のサイトから、このスーパーの不正に関する記事はなくなっている。

地方権力の不正が野放しになることが問題なのではない。出口を探す「不満ガス」が向かう方向が、地方権力から地方権力の悪行をろくに取り締まることもできない中央へと変わることが問題なのだ。

「不満ガス」が、中央の新たな(というか前からある)不正を見つける心配(というか期待)もある。

新生「財経」の正直すぎる船出

胡舒立が編集長を辞任してから初めて発行される「財経」第251号が11月23日、主要都市で発売された。どうやら実質的な編集長の仕事は親会社SEEC(中国証券市場設計研究中心)のトップ王波明が務めているらしく(王はもともと「総編集」だったという。「総編集」とか「執行主編」とか、とかく中国の雑誌編集者は肩書きがややこしい)、最新号にはそのあいさつ文が載っている。これが実に驚くべき内容だ。

まず王は冒頭で、300人いた「もっとも現代的な雰囲気にあふれていたニュース編集部」が空っぽの状態であり、急遽雇用した記者たち約20人でかつて200人がやっていた仕事をやって何とか今週号を完成させた、と明らかにしている。そして「今号が読者の満足を得ることはできないことを十分理解している」と正直に告白している。

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手元に雑誌そのものがないので詳細は分からないのだが、表紙はオバマ(とその後ろでVサインする中国の青年)。ウェブ版の「ちら見」を見る限り、記事はオバマ独占インタビューというわけでもなさそうだ。

□■北京編集部には記者6人だけ■□

WSJ紙(中文版)によれば、59人いた北京編集部の記者は6人が残るだけで、国内各地の支局にいた14人の記者中12人が辞め、ニューヨーク、ワシントン、ロンドン、香港の各駐在記者はすべて辞職――と、惨憺たる有様である。オバマ訪中の記事もすでに辞めた記者が書いたらしい。逆に、よくこれで雑誌が出せたなと思うくらいだ(のちのち希少価値が高まりそうだから、ぜひとも現物を入手したい)。

中国のトップ経済誌である財経の記者ともなれば「つぶし」ももちろん利くのだろうし、基本的に経済が右肩上がりという状況があるのだろうが、それにしてもこれだけの記者が一気に辞めるとは、まさに胡女史の求心力おそるべし、である。今、アメリカや日本の雑誌で「主義主張に共鳴して」の集団辞職など起こりえない(経営難の集団解雇はありえるが)。

□■新編集長の「名文家」度■□

それにしても「新編集長」王氏のあいさつ文はなかなかの名文だ。初っ端にこれほど正直に台所事情を読者にさらけ出すのは、よっぽどの馬鹿かよっぽどの腹の持ち主のはずだが、文章を読んでいる限り後者に思える。

王はあいさつの中で「財経が譲ることができないもの――それはあなた方読者の利益です」と、終始「読者第一」の姿勢を訴え、最後に雑誌の「特約作家」だったという詩人・北島の「新的转机和闪闪星斗/正在缀满没有遮拦的天空/那是五千年的象形文字/那是未来人们凝视的眼睛(新たな転機と輝く星々は/まさに遮るものなき空に満ちている/それは五千年の歴史をもつ象形文字/それは未来の人々が見つめる眼)」という詩を引いている。

個人的には海外定期購読して応援したい気がするが、それでも200人の仕事を20人でしていたのでは、ほどなく近い将来に雑誌が破綻を迎えるのは火を見るより明らかだ。王新編集長は「『老同事(古い仲間)』と『新同事(新しい仲間)』が出会い、皆が一緒に財経の理念を継承・発展させることを望む」と意味深な一文をあいさつの中に入れているが、さてどれくらいカムバック組が出るのか。

それもこれも「財新」の行方次第なのだろうけど。