沿岸部の労働力はなぜ足りないか
邱勇(30)が最近、照明会社の聖嘉佰利灯飾公司に転職したのは、前の会社より月給が300元高かったから。彼が言うには、珠江デルタの農民工にとって働き先の選択の余地はかなり大きくなっており、もし1500元より給料が低いようならすぐに他の企業に転職できる。
来たばかりのことは選択権は企業にあって、工場に入れれば御の字だった。だが今では企業と彼らの要求が一致しなければ、僕らは新たな就職先を探すことができる。(CCTV<第一時間>より)
春節明けの珠江デルタで労働力不足が深刻化している。時事の転電記事によれば、東莞で100万人以上、深圳で80万人が不足しているという。
産業の高度化が進むにつれ、工場側の求人と単純技術しかもたない農民工とのミスマッチが起き始めている、というのがこれまで考えられてきた労働力不足の主な原因だった。だがWSJ紙の中国ブログでダウ・ジョーンズのシェン・ホン記者がそれと異なる視点を提供している。
■□「ガラス拭きより農業がいい」■□
「確かに構造的ミスマッチはある。深刻な労働力不足は、中国の輸出産業が構造変化を遂げつつあるのに、技術力のある労働者が不足していることが原因だが、その一方で工場側は新世代の農民工は建設作業のようなきつい単純労働にもはや関心がない、と不平を言っている」とシェン記者は書いている。
シェン記者は若い世代の農民工がきつい労働を嫌う理由として、農村の生活水準のアップを上げている。農民税の廃止や市場介入によって中国政府の農村優遇策は今も続いている。その結果、農民は都会で窓ガラスふきをするより農業をしたいと考えるようになった――と、記事は分析している。
また、シェン記者は長江デルタや珠江デルタの労働力不足は重慶や南京、武漢、南昌といった内陸部の「二線都市」の建設ブームが労働力を吸収していることも関係していると書いている。農民工は沿岸部よりこういった故郷により近い都市を働き先として選ぶ。単純な理屈だ。
記事はほかに農民工の第2世代が、すでに故郷に帰った第1世代ほど「家族のために」と、汗水たらして働かなくなったことも理由に挙げている。要は価値観の違いである。
■□「調和社会」実現への道?■□
これは中国崩壊の序章なのだろうか。確かに沿岸部で労働力が不足すれば、中国経済を支える輸出産業は生産減とコスト高による打撃を受ける。
しかしこの記事が指摘している沿岸部から内陸へ向かう労働力の逆流現象は、中国経済にとって必ずしもマイナス材料ではないと思う。いや、むしろプラスですらある。
これまで中国経済は、内陸部から沿岸部へ安価な労働力を集めることで築いた国際競争力を基に発展してきた。ただ沿岸部に人とカネが集まることは、効率的である一方で、「バブル」の懸念を常に孕んできた。
農民工が農村、あるいは二線都市へと移動することは沿岸部のバブル圧力を緩和し、かつ「国土の均衡のある発展」(自民党がずっと唱え続けていた課題だ)につながる。結果、国民の間の格差は是正され、「調和社会」が実現する―—。
もちろんそんな簡単には行かない。今は沿岸部だけの労働力不足は将来、全土に広がるかもしれない。一人っ子政策による人口減と高齢化が原因だ。世界一労働人口の多い国は、あと50年もすれば世界一老人の多い国になる。
社会を支配する儒教思想が今のままなら、若年世代の物心両面の負担は日本の比ではないだろう。
来たばかりのことは選択権は企業にあって、工場に入れれば御の字だった。だが今では企業と彼らの要求が一致しなければ、僕らは新たな就職先を探すことができる。(CCTV<第一時間>より)
春節明けの珠江デルタで労働力不足が深刻化している。時事の転電記事によれば、東莞で100万人以上、深圳で80万人が不足しているという。
産業の高度化が進むにつれ、工場側の求人と単純技術しかもたない農民工とのミスマッチが起き始めている、というのがこれまで考えられてきた労働力不足の主な原因だった。だがWSJ紙の中国ブログでダウ・ジョーンズのシェン・ホン記者がそれと異なる視点を提供している。
■□「ガラス拭きより農業がいい」■□
「確かに構造的ミスマッチはある。深刻な労働力不足は、中国の輸出産業が構造変化を遂げつつあるのに、技術力のある労働者が不足していることが原因だが、その一方で工場側は新世代の農民工は建設作業のようなきつい単純労働にもはや関心がない、と不平を言っている」とシェン記者は書いている。
シェン記者は若い世代の農民工がきつい労働を嫌う理由として、農村の生活水準のアップを上げている。農民税の廃止や市場介入によって中国政府の農村優遇策は今も続いている。その結果、農民は都会で窓ガラスふきをするより農業をしたいと考えるようになった――と、記事は分析している。
また、シェン記者は長江デルタや珠江デルタの労働力不足は重慶や南京、武漢、南昌といった内陸部の「二線都市」の建設ブームが労働力を吸収していることも関係していると書いている。農民工は沿岸部よりこういった故郷により近い都市を働き先として選ぶ。単純な理屈だ。
記事はほかに農民工の第2世代が、すでに故郷に帰った第1世代ほど「家族のために」と、汗水たらして働かなくなったことも理由に挙げている。要は価値観の違いである。
■□「調和社会」実現への道?■□
これは中国崩壊の序章なのだろうか。確かに沿岸部で労働力が不足すれば、中国経済を支える輸出産業は生産減とコスト高による打撃を受ける。
しかしこの記事が指摘している沿岸部から内陸へ向かう労働力の逆流現象は、中国経済にとって必ずしもマイナス材料ではないと思う。いや、むしろプラスですらある。
これまで中国経済は、内陸部から沿岸部へ安価な労働力を集めることで築いた国際競争力を基に発展してきた。ただ沿岸部に人とカネが集まることは、効率的である一方で、「バブル」の懸念を常に孕んできた。
農民工が農村、あるいは二線都市へと移動することは沿岸部のバブル圧力を緩和し、かつ「国土の均衡のある発展」(自民党がずっと唱え続けていた課題だ)につながる。結果、国民の間の格差は是正され、「調和社会」が実現する―—。
もちろんそんな簡単には行かない。今は沿岸部だけの労働力不足は将来、全土に広がるかもしれない。一人っ子政策による人口減と高齢化が原因だ。世界一労働人口の多い国は、あと50年もすれば世界一老人の多い国になる。
社会を支配する儒教思想が今のままなら、若年世代の物心両面の負担は日本の比ではないだろう。
日本に来る中国人観光客はたった2%?
日経新聞が今月18日朝刊で「厳冬消費に春節特需 中国人観光客に熱視線」という記事を書いた。不況に悩む日本の小売業界が中国人観光客による「春節特需」に期待している、という何てことない内容なのだが、そのサイド記事の「中国人の旅行先 日本2%どまり」というタイトルに思わず目を剥いた。そんなに少ない?!
主に日経を肴に日本政治や日本経済についてブログで批評している我が青春のRockin'on渋谷陽一社長にも響く内容だったらしく、その日のうちに言及している。
年間100万人を超えて日本消費を救う救世主みたいに言われている中国人観光客が、全体のたった2%だったなんて! きっともうみんなヨーロッパやアメリカに行っているんだ、同じアジアでも戦争で一緒にひどい目にあった韓国の方がやっぱりいいんだ……と、連想するのも無理はない。
だがそんな心配はない。この記事はもっとも大事なことを書いていない。
年間4600万人といわれる中国人観光客の70%が行く「海外」は香港・マカオ。確かに日本はアジアのなかで韓国に負けているが(韓国は194万人)、満足度では日本が一番というデータもある。トップ10を占めるのはほとんどアジアの国で、彼らが日本を飛び越してヨーロッパやアメリカに殺到しているわけではない――。
■□日本が占める本当の割合■□
中国国家旅遊局がまともなデータを提供していないので、複数の数字をつなぎ合わせて推測するほかない。香港・マカオが70%というのは世界観光機関(UNTWO)の07年3月のデータだが、おそらく全体像はそう変わるまい。09年9月分の発表によれば、中国人の海外旅行先トップ10は以下の通りだ。
1位香港 2位マカオ 3位韓国 4位日本 5位ベトナム
6位アメリカ 7位台湾 8位ロシア 9位シンガポール 10位マレーシア
あくまで推測だが、4600万人のうち、香港とマカオで3300万人。韓国が200万人、日本とベトナムが100万人。トップ5で約80%を占める計算になる。香港とマカオを除けば、日本が占める割合は約8%だ。
■□「思考の負のスパイラル」■□
台湾はおそらくこれから伸びて行く。6位にアメリカが入っているのはいろいろな意味で恐ろしいが、それでも日本を超えるまでにはまだしばらく時間がかかるはずだ。
中国からの距離や物価を考えれば、韓国200万人に対して日本100万人というのはそれほど不合理な数字ではない。中国の経済成長を考えれば、むしろ警戒しなければならないのはアメリカであり、さらに言えばヨーロッパだろう。国別では数字が小さくなるが、「ヨーロッパ」でくくると既にそこそこ大きな数字になっているかもしれない。
しかし中国人が欧州に殺到するようになるには、単に経済成長を頑張るだけでなく、人民元高の受け入れという高いハードルを超えなければならない。韓国のもたつきを見ていれば、日本にもまだまだ十分チャンスはある、と思う。
日経の記者も渋谷社長も「思考の負のスパイラル」に陥っているのではないか。
主に日経を肴に日本政治や日本経済についてブログで批評している我が青春のRockin'on渋谷陽一社長にも響く内容だったらしく、その日のうちに言及している。
年間100万人を超えて日本消費を救う救世主みたいに言われている中国人観光客が、全体のたった2%だったなんて! きっともうみんなヨーロッパやアメリカに行っているんだ、同じアジアでも戦争で一緒にひどい目にあった韓国の方がやっぱりいいんだ……と、連想するのも無理はない。
だがそんな心配はない。この記事はもっとも大事なことを書いていない。
年間4600万人といわれる中国人観光客の70%が行く「海外」は香港・マカオ。確かに日本はアジアのなかで韓国に負けているが(韓国は194万人)、満足度では日本が一番というデータもある。トップ10を占めるのはほとんどアジアの国で、彼らが日本を飛び越してヨーロッパやアメリカに殺到しているわけではない――。
■□日本が占める本当の割合■□
中国国家旅遊局がまともなデータを提供していないので、複数の数字をつなぎ合わせて推測するほかない。香港・マカオが70%というのは世界観光機関(UNTWO)の07年3月のデータだが、おそらく全体像はそう変わるまい。09年9月分の発表によれば、中国人の海外旅行先トップ10は以下の通りだ。
1位香港 2位マカオ 3位韓国 4位日本 5位ベトナム
6位アメリカ 7位台湾 8位ロシア 9位シンガポール 10位マレーシア
あくまで推測だが、4600万人のうち、香港とマカオで3300万人。韓国が200万人、日本とベトナムが100万人。トップ5で約80%を占める計算になる。香港とマカオを除けば、日本が占める割合は約8%だ。
■□「思考の負のスパイラル」■□
台湾はおそらくこれから伸びて行く。6位にアメリカが入っているのはいろいろな意味で恐ろしいが、それでも日本を超えるまでにはまだしばらく時間がかかるはずだ。
中国からの距離や物価を考えれば、韓国200万人に対して日本100万人というのはそれほど不合理な数字ではない。中国の経済成長を考えれば、むしろ警戒しなければならないのはアメリカであり、さらに言えばヨーロッパだろう。国別では数字が小さくなるが、「ヨーロッパ」でくくると既にそこそこ大きな数字になっているかもしれない。
しかし中国人が欧州に殺到するようになるには、単に経済成長を頑張るだけでなく、人民元高の受け入れという高いハードルを超えなければならない。韓国のもたつきを見ていれば、日本にもまだまだ十分チャンスはある、と思う。
日経の記者も渋谷社長も「思考の負のスパイラル」に陥っているのではないか。
中国版Mr.マリック論争
台湾出身のマジシャン、劉謙(Lu Chen)の人気が大陸で爆発したのは、昨年のCCTV春節聨歓晩会への出演がきっかけだった。劉謙は今月13日、今年の春晩会にも出演。ジュースやトランプ、コインをつかったクローズアップ・マジックを披露したが、「80後」作家の韓寒がブログで「詐欺団による詐欺」「ただの演劇にすぎない」と噛み付いている。
韓寒は「劉謙の周りの見学人がすべて仕込みである」という点を主に批判している。曰く、「1人の仕込みはいい。だが全員仕込みというのは許されない」
韓寒のブログを読んでいて、懐かしい感情がよみがえってきた。1990年前後に日本テレビで特番が放送され、大ブームを起こしたMr.マリックの「超魔術」現象だ。「超魔術」と称するマジックに日本中が翻弄され、ついには「インチキ」に怒った視聴者によるマリックバッシングまで起きた。
You tubeでみる限り、確かに劉謙の芸には細かいミスもあるが、それなりに楽しめるものだ。これを真実と信じて、うそだと分かったら「裏切られた!」と逆上する――今の中国人の精神年齢は、今から20年前の日本人の精神年齢に近いのだろう。成熟した日本ではもう超魔術ブームは起きないし、こういう「芸」をマジックと割り切って楽しめるほど、日本人は大人になっている。
別に取り立てて中国人が悪い、と言っているのではない。「社会の精神年齢」というのはそういうものだし、どの国も通る道だ(アメリカでもユリ・ゲラーブームがあった)。ただ、90年前後のマリックブームのあとに日本で起きたバブル崩壊が、今の中国に当てはまらないかちょっと気になるが……。
それはそうと、京華時報が春晩会の劉謙のマジックが1チャンネルと9チャンネルで別の収録(!)のものが流されている、とスクープしている(↓、記事のリンクは切断済み!)。

いかにも中国らしいが、これはちょっと脇が甘いんじゃないの?