Observing China -17ページ目

「依法治軍」の深すぎる意味

全人代が開幕した。経済成長率目標は8%(「保八」だった去年とは意味合いが違うが)、国防予算の伸びは一ケタ……と政府活動報告に目新しさはない、はずだった。だが、国防関係の「依法治軍」という四文字が眼に飛び込んできた。

着眼全面履行新世纪新阶段军队历史使命,按照革命化现代化正规化相统一的原则,加强军队全面建设。(新世紀の新段階の歴史的使命を完全に実行するため、革命化・現代化・正規化を統一的に目指す原則に基づき、全面的な軍隊建設を加速する)

依法治军、从严治军,提高军队正规化水平。积极稳妥地深化国防和军队改革。(法によって厳しく軍を管理し、軍隊の正規化レベルを高める。積極的かつ妥当に国防と軍隊改革を進める)

この政府活動報告の文言は解放軍にとってかなり厳しいものだと思う。「正規化」にはそれほど深刻な意味はないと思うが、「从严治军」は軍隊内で風紀が乱れ、士気が下がっていることを差している。

そして「依法治軍」である。「以法治国」の「以法」より軽い表現とされる「依法」ではあるが、法に基づいて軍を管理する、ということは、ニュアンスとしては「国軍化」が含まれるはずだ。

もちろん共産党独裁が憲法に明記されている国だから、「政党の軍隊」を法で厳しく管理することも解釈としては可能。だが政府活動報告でこれだけ強調するのは、明らかに何らかのメッセージが含まれていると見ていい。

胡・温軍は上海制圧作戦に続いて、解放軍鎮圧に乗り出したのかもしれない。とすれば、想像以上に解放軍のパワーダウンが進んでいることになる。

「中国バブルはドバイの1000倍危険」なのか

今年1月、NYタイムズの“Contrarian Investor Sees Economic Crash in China”(逆張り投資家の中国崩壊予測)という記事で、エンロンの空売りで名を馳せたアメリカの投資家ジェームズ・シャノスの中国バブル崩壊論が取り上げられて2カ月がたった。

シャノスが中国バブルは「ドバイの1000倍、あるいはそれ以上危険」と訴え、中国政府が経済成長率の統計データを改竄していると指摘している――と、筆者のデービッド・バルボザは書き、記事はそれなりに話題になった。

あれから2カ月。不動産も株もバブルは弾けていない。1月の全国70都市の住宅販売価格は9・5%増だったが、1月中旬に中国人民銀行が預金準備率を引き上げたので、2月にはその効果が現れるだろう。株価も沈静傾向にある。

ほとんど季節の風物詩といってもよくなった「中国バブル崩壊論」。シャノスの顔を見ていると、「崩壊論」をせっせと唱えるのは何か他に狙いがあるからのような気がしてくるが、それはそれとして、そもそも中国バブルは崩壊するのだろうか。

投資会社PIMCOが昨年12月に出した日中バブル比較に関する興味深いレポートがある。

3ページを見て欲しい。日本と中国(+アメリカ)の不動産バブルの比較が表になっている。国の規模が違うので、単純比較できないとは思う。ただ

成長率       中国=10% 日本=3~4%
不動産価格上昇率  中国=12% 日本=30%
バブルの対象    中国=住宅  日本=商用不動産

というデータは、中国が「バブル崩壊」までまだかなり余裕があることを如実に物語っている。

高い成長率は多少のバブル(とその崩壊)は吸収してしまう。不動産価格の上昇率も中国は日本の半分以下である。中国で住宅が不足し投資の対象になっているのは、改革開放前のでたらめな社会主義政策のせいで住居が圧倒的に不足しているから。なので、住宅の供給不足が解消されれば、いずれバブルは沈静化する。オフィスビルを「土地ころがし」の対象にしていた日本とは違う。

ただ気になるデータもある。不動産向け与信規模は日本が50%だったのに対し、中国も40%に上っている(アメリカはなんと80%だが)。

債権者がともに実体経済の主役である銀行というのも嫌な感じだ(バブルのころ、日本の銀行は貸し出しにやっきになっていて、ろくに担保もない大学生にまでカードをつくれつくれとせがみまくっていた)。

とはいえ、中国の銀行の不良債権率は03年の17・8%が08年には2・4%に改善している。銀行の不動産融資も政府が厳しく監視しているから、銀行が壊滅的打撃を受けて貸し渋りに走る、ということは考えにくい。

人口を鑑みたGDPの「伸びしろ」を考慮しても、バブルが中国経済全体に占める存在感は、かつての日本よりずっと小さいように感じるのだが。

「先富論」終わりの始まり

新華社によると、2010年に入ってから、中国政府が「所得分配の調整」という表現をすることが増えている。

2月3日には胡錦涛が経済発展モデルの転換について論じたなかで、「国民所得の分配構造の調整の加速」を最優先すると述べ、温家宝と李克強も相次いで「合理的な所得分配制度を通じて」「人民全体に改革発展の成果を享受させる」と言及した。

新華社の記事によれば、05年の中国の国民所得に占める住民所得(=労働者・農民の所得)の割合は一次分配後が60%、二次分配後が59%(90年代初期にはともに68%、69%だった)。年10%の経済成長が続いている国の中で、労働者や農民がすっかり取り残されている。

中国政府が「所得分配機能の強化」を言い出すのは、厳然として存在する貧富の格差ゆえ。自殺者が出まくっても手を緩めない汚職追放運動もその一環だが、汚職の摘発には象徴的な意味しかなく、現実に是正できる格差は小さい。本気でやるなら税と社会保障の改革で既得権益層にメスを入れるしかない。

鄧小平の復活以来、「先富論」は不可侵なお題目だった。いわば中国は一貫してトリックルダウン型経済を指向して来たわけだが、その終わりが近づいている。南方日報系の21世紀経済報道もそんな記事をウェブに載せている。

「トリックルダウン派」の頭領だった上海市トップの陳良宇が逮捕されて3年。国内の政治的な流れも、中国経済を取り巻く世界経済の現状もトリックルダウン派に不利な状況が続いている。胡錦涛らの発言は、明らかに「先富論」への宣戦布告である。

たとえ「先富論」を錦の御旗にしても、既得権益層はほとんど抵抗できないだろう。