ニューヨーク・シティ・マラソンという有名なマラソン大会がある。ブルックリンのパークスロープあたりも通過するのだそうだ。それに合わせてその男の住むアパートの住民でストールセールをやろうという話が持ち上がったという。ストールセールというのはアパートの玄関口に整理したいガラクタを並べて売る、ガレージ
セールの「玄関版」。その男も出品するつもりでいたが、当日用意が済んだら時遅く、観衆は去った後だったという。
ある時その男に日本から電話をしたら「今日は天気がいいからNJのビーチに行く」と言う。時差を引いてみると現地はもう午後2時過ぎ。きちんとした会社に勤めるホワイトカラーの成人男性なのに、自分からは「うまく電話がつながらない」と言ってこちらにはたった一度だけかかって来たきりなのに、私が安い電話サービスを使っていると知ってから、こちらからかけると延々と話し続ける。
その時もアパートを出てからも電話を切らない。歩いて10分ほどの地下鉄駅に着いたら財布がない、と慌てている。すぐに誰かが見つけて手渡してくれたというが「今日は遅くなったからもう取りやめ」る始末。そこで電話を切ったからその後の彼の行動はわからないが、ビーチに行くなら普通、もっと早くから行動開始をするだろうに。ここで気づくべきだったのだ、彼が「オジャンの人」だと。
この男性は、私がNYを訪れた時に、限られた日数しか居られない私にとっては日程が重大事なのだが、一緒に楽しもうと言う割りには予定を立てない。
ブルックリンのグリマルディズという有名なピザ屋にはこの数年どうしても行きたいと切実に思っていたので、止せばいいのに誘うと、では「水曜日がいい」と先のばしにした挙句、当日彼の時間設定に従って出かけたら地下鉄のルート変更(よくある事なのに)によって10分ばかり遅れが生じたらもう「時間がない」と結局オジャン。
その結果、彼の職場の近くのアンドリューズとかいうつまらないカフェに入って美味しくもないサンドイッチを食べた。彼に任せておいて事がうまく運ぶことはまずない。何しろ彼は「オジャンの人」なのだから。その後グリマルディズの話は立ち消えになったので彼の友人と出かけた。その友人は頼んだ訳でもないのに、店のあるダンボ地区をあちこち案内してくれて嬉しかった。
「オジャンの人」を当てにすると散々な目に遭う。グリマルディズ以降、私が彼を誘うことはなかった。
もっと早く彼が「オジャンの人」だと気づくべきだった。私もまだまだ甘い。
A day late, a dollar short という表現がある。一日遅かった、一ドル足りなかった、その為に事がうまく運ばない、そんな状況で使うのだが、彼の為にあるような言葉だ。




