マルディグラの悲しい首飾り | 裸のニューヨーク

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ユー・ドント・ノウ・ニューヨーク・ザ・ウェイ・アイ・ドゥ...これは私のアンビバレントでパーソナルなニューヨーク・ストーリー。

NHKのBS放送で「首飾りを作ったのは誰?」というドキュメンタリーを見た。ヒストリーチャンネルとかナショナル・ジオグラフィックチャンネルには素晴らしいドキュメンタリー番組が多い。制作国を見ると大体がイギリスとかカナダ、アメリカである。NHKが放映するドキュメンタリーも外国製が多い。「首飾りを…」も2005年アメリカ制作である。

日本でも国際的な視点でどんどんドキュメンタリーを自前で作ればいいのにと思うが、ドキュメンタリーはTVでも出版でも金がかかるのである。かくてTVを付ければ安(い制作費)近(場、国内のみ)短(い期間で仕上げる)の安上がりのバラエティ番組ばかりになるという仕組み。

それはともかく...

日本ではあまり目にしない安物のビーズの首飾り。これを山車上から投げ与える風習はアメリカのお祭り、マルディグラで有名になったという。ラスベガスのホテルのショーで投げるのもTVで見た事がある。人々はこぞって手を伸ばしてこの飾りを欲しがり、手にした人は首から幾つもぶら下げて悦に入っている。私は安物がキライだから欲しいとも思わない。その製造の過程を知れば
尚更である。

実はこのビーズの首飾りには幾つか問題点があるのだ。まずひとつは原材料のポリスチレンが中枢系に障害を引き起こし、ガンを誘発する恐れもあるという。が、国際的な規制がない。また、首飾りを作るのは中国の少女達で、労働条件はひどく悪い。休みは旧正月に2週間家に帰る時だけ。少女達は親元から離れて寮暮らしている。男性従業員もいるが、男女の部屋は行き来できず、規則を破ると1か月分の給料が差し引かれる。寮には監視カメラが設置されているのだ。

中国の工場のオーナーは40代の中国人。かなり流暢な英語を話すので高等教育を受けた富裕層だろう。カメラに向って自分がいかにも労働者の味方のような話し方をするが、偽善の匂いがぷんぷんとする。従業員には誠実に接していると言うのだが、女工たちは約束したのに賃金を上げてくれなかったと不満顔をする。

首飾りの出荷先のニューオーリンズのドムという会社のアメリカ人経営者は安い工賃で働かせて罪悪感を感じないのかと聞かれ、「この工場がなければ他の国に出稼ぎに出していただろう。女の子がそこで稼げるおかげで少女の家は安泰。家も建て、自分で商売も始められる」と自画自賛。娘の父親にしてからが「これで大金持ちになれる。娘にはたくさん稼いでもらわないと」と少女の苦労は意に介さないかのようだ。何だか、昔の日本の貧しい農村、女工哀史などを彷彿とさせる。

ビーズを手にしたアメリカ人に中国のビーズ工場の様子を写したテープを見せるとさすがに「何だか欲しくなくなった」と言っていた。ブランド志向の日本の女性なら誰も欲しがらないようなビーズの首飾り。やっぱりアメリカでも翌日ゴミとして捨てられるという。

文中のマルディグラはリオのカーニバルと並ぶ世界三大カーニバルのひとつで、2月3日から3月9日の間に行われるという。特にニューオーリーンズが有名で今年は2月20日だったそうだ。21日にはきっとたくさんのビーズがゴミとして捨てられた事だろう。