『果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語ー㉜ー』にゃんく | 『にゃんころがり新聞』

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果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語

ー㉜ー

 

 

 

 

 

にゃんく

 

 

 

 

 

 第Ⅱ章 奪われた光と奪われた恋人

 

 

  Ⅰ リーベリの奇妙な家来たち

 

 

 ミミは死んではいませんでした。ただ痛みのために気を失っていただけです。リュシエルはミミに服を着せると、隣近所の家に助けを求めました。幸い、五十メートルほど離れた隣家の住人が、消毒液を貸してくれたり、隣町からお医者様を呼ぶ手筈を整えてくれたりしました。
 リュシエルが何度も呼びかけているうちに、ミミは意識を回復しました。
 ミミの美しかった顔は今では見る影もなく赤黒く爛れて別人のようになっていました。爛れた部分は火傷をしたように熱を持っていて、しばらく湯気が漂っていました。ミミの両目の色は時間が経つごとに、紫から黒に変色し、みるみる輝きを失っていきました。
 そのうちにケイが家に帰って来ました。
 ケイはリューシーとミミから、おおまかな事の顛末を聞き取ると、リーベリのことを激しく罵りはじめました。
 ミミはその頃には痛みのためにのたうち回るような状態からは脱していましたけれど、時々、「痛いよぉ」とか、「熱いよぉ」などと苦しそうな声を上げるのでした。
 やっとのことで隣町からお爺さんのお医者様と太った看護婦さんがやって来ました。
 お医者様はケイから説明を受けた後、ミミを一瞥して眉を顰めました。
 お医者様はしばらく治療方法について思いを巡らせた後、決心したように黒い鞄の中から、瓶に入った何かの薬品を取り出し、それをミミの顔に二、三滴垂らしました。その途端ミミはもの凄い叫び声をあげて苦しみはじめましたので、お医者様は吃驚して、垂らした薬品を慌てて柔らかいガーゼで拭き取りました。ガーゼには黒く変色したミミの皮膚がこびりつきました。
 お医者様は、ミミの両目を覆うようにぐるっと包帯を巻いて、ミミをそっとベッドに寝かせました。
「目が強烈な毒で犯されておるな。……残念じゃが、両目は近いうちにほとんど見えなくなってしまうぞ」
「目が見えなくなるですって! そんな、何とかならないんですか?」
 ケイはお医者様に泣きつきました。隣にいた太った看護婦さんがお医者様の耳元で、「どうにかならないんですかって!」と大声で叫ぶと、お医者様は首を振って、「強い詛いの魔法がかけられているようじゃ。悪いが、わしの腕ではお手上げじゃ。家に戻っても、消毒液くらいしかないからの」
「王宮府にいる医者に診せればどうですか?」リュシエルがたまりかねたように話に割って入りました。「都なら、腕の良い医者もいるし、設備も整っています」
 看護婦さんがまた、都の医者に診せればどうですか、と大声で復唱しました。
「それもひとつの方法じゃが……」
「目はまた元通り見えるようになるのですか?」リュシエルは大きな声で医者に訊ねました。
「それも分からん。こんなことは初めてじゃしな」
 その後、包帯やガーゼ、鎮痛剤などの薬を処方した後、「傷口は清潔にしておくこと。薬品をつけるのは逆効果になるようじゃから水でお洗いなさい。一週間後にまた診せておくれ」と云い残して、お医者さまと看護婦さんは帰って行きました。
 ケイは大きなお尻をぷりぷり振りながらリーベリの部屋まで突進して、力の限り扉を開けました。扉が壁に打ち付けられる大きな音が響きましたけれど、部屋の中には誰もいませんでした。
「リーベリが帰って来たら、ただではおかないから! こうなったら、総督府の憲兵にも通報してやるわよ。今まで我が子だと思えば分け隔てもなく育ててきてやったのに! 今日を限りにもうあの女は自分の子供でも何でもないわ」
 次の日からケイが村中に云い触らしはじめたのはこんなことでした。まま子のリーベリがとんでもないことをしでかした。私のかわいい娘に嫉妬して、娘の顔を二度と嫁入りの出来ないような傷物にした。もしリーベリをこの四辺で見かけたら、私にすぐ教えてほしい。ミミに負わせた傷は責任を持って必ず治させる。そしてその後、憲兵にしょっ引いて貰って、牢屋にぶち込んでやるんだから。見ておきなさい。あの女に極刑が下る日が来るのはそう遠くはないんだから……。
 けれどもリーベリはその日から家に帰って来なかったのでした。

 

 

 

 

 

ー㉝ーにつづく

 

 

 

 

 

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