果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語
ー㉕ー
にゃんく
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リーベリは仕事を終えて家に帰って来てから、家探しのために箒に跨って南北から東西に至るまで飛び回っていました。
南は深い森が広がっていて、昔からそこを根拠地にしている盗賊が旅人などを襲う噂が絶えませんでした。西には駱駝の瘤のような山が三つ連なっていましたが、急峻なごつごつした岩に囲まれ、住む場所には適していませんでした。東にはエフエル村があり、ふたりで静かに暮らせそうな場所はなさそうでした。
リーベリは残る北の方角に、百メートルほどはある岩山の裾に出来た、適当な洞窟を見つけました。
木ぎれに焔を点して、洞窟の穴に足を踏み込むと、驚いた蝙蝠が数匹入り口に向かって飛び立って行きました。頭上から水滴が滴り落ちて来て、首を濡らしました。
洞窟の穴は幅二メートルほど、高さがそれよりすこし長いくらいの大きさで五十メートル位の奥行きがあり、奥へ進むにつれて地中へ緩やかに傾斜していました。
行き止まりにはふたりで住むのにちょうどよい大きさの空間があります。
リーベリは此処を掃除をしてきれいにすれば、快適でお洒落な住まいに出来るように思いました。
周囲には人家もありませんでした。あるのは森と木と石と砂の自然だけでした。
リューシーはふたりだけの住まいになるこの洞窟を気に入ってくれるかな? 此処が誰にも邪魔されない、ふたりだけの宮殿になるの。
忙しくなりそうだわ。
リーベリは手の埃をはたいて、箒を握った手に力を込めました。
リーベリは自分の部屋に戻って来ると、リューシーに手頃なおうちを見つけたことを知らせました。「あなたのお気に召すように、きれいにしているところだから、もうちょっとだけ待ってね」と満面に笑みを浮かべてリーベリは云うのでした。
「家って? ぼくのために?」
「そうよ」
「この村の中にかい?」
「この村じゃないわよ。この村には……色々と口うるさい人もいるしね。すこし離れた場所よ。心配することないわよ。きっとリューシー、見たらびっくりすると思うわ」
「……」
「そうしたら、自由に外に出ることも出来るわ。もう誰に見つかるとか、考えなくてもいいのよ」
「……」リューシーはリーベリから目をそらして、壁の方を見つめています。
「どうかしたの?」
「いや、何でもないよ……」
体調でも良くないのだろうか、とリーベリはリューシーの様子を見てすこし心配になりました。自分の話を聴いて、もうすこし喜んでほしかったけれど……。洞窟のおうちをきれいにして、彼の気に入ってもらえるよう頑張ろう。
リーベリは家の外に出て、ストレイ・シープとジョーニーに洞窟内の掃除作業を手伝ってくれるよう頼みました。「ごめんね。こんなところに放り出して。そのうち、あなたたちのことをちゃんとリューシーに紹介するから」
でも、ジョーニーもストレイ・シープも、愛想良く、「気にしないでいいですよ、リーベリ様」、「僕たちは、別に外にいてもへっちゃらですから」と云ってくれるのでした。
ー㉖ーにつづく

