果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語
ー⑳ー
にゃんく
男の子を家に運び込んで来てから、既に十日が経っていました。
この暑さが男の子の体力を奪うことにならないだろうかと、リーベリは気が気でなく、心配のあまり夜もぐっすり眠れないほどでした。
暑さと疲れのために、仕事から帰って来ると、リーベリは夕食も取らずにうとうとしていました。
誰か部屋の中に這入って来た気配がしたので目を開くと、知らない間にミミが部屋の中に這入り込んでいました。ミミはリーベリのために夕食をトレイに載せて持って来てくれたのでした。
その様子をリーベリはぼんやりと眺めていました。
「そなたは誰?」という知らない男の声がしました。
ミミは部屋の中の男の子の存在に目を丸くしていました。
ミミは助けを求めるように夕食を載せたトレイを持ったまま、今度はリーベリの方へ視線を移しました。リーベリはやっと我に返って、愕いて男の子の方を見ました。まるで眠り姫のように目を醒ます気配のなかったあの男の子がベッドの上で身を起こし、じっとミミの方を凝視しているのです。
「私は今いったい何処にいるのだろうか?」
ミミは、事情が分からないながらも、男の子のことをリーベリの友人か何かのように理解したらしく、男の子の問い掛けに、優しく答えを返していました。「ここはロゴーク村よ。……私はミミ。あなたは?」
「ミミ?……」男の子はしばらくミミに熱い視線を送っていました。
リーベリはふたりのやりとりを何気なく見守っていましたけれど、そのうちにジュリアの予言に似た言葉をふと思い出し、慌てました。そうして思わず、大きな声を出してしまっていました。「どうして勝手に部屋の中に這入って来たの?」
ミミは突然の姉の剣幕に目を白黒させながら、自分の行動の潔白を証明するように、手に持っている夕食を載せたトレイを高く掲げました。「お姉ちゃんに、お食事を持って来たの。まだご飯食べてないと思ったから」
リーベリは苛立たしげに足を踏み鳴らして云いました。「お食事なんて、自分で取りに行けるわ! 早くお部屋から出て行って!」
ミミはそろそろとトレイをリーベリの足元へ置きました。今にも自分に噛みつきそうな顔つきをしているリーベリを一瞥し、逃げるように戸を閉めて部屋から出て行きました。
戸が閉まっても、男の子はまだ戸の向こうに消えて行った何かを見つめているふうでした。
「具合はどう? 十日間も眠り続けていたのよ」とリーベリは男の子の関心を自分の方に向けるように、出来るだけ優しく話しかけました。