『果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語ー⑱ー』にゃんく | 『にゃんころがり新聞』

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果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語

ー⑱ー

 

 

 

 

 

にゃんく

 

 

 

 

 

 

 男の子は首にペンダントをつけていました。ペンダントの先には丸い、透明な石が光っています。
 リーベリは男の子の頬に接吻をしました。
 心なしか、口付けをしたあたりが薔薇色に染まったような気がしました。「あんたは、あたしの大切な宝物」とリーベリは男の子の髪を撫でながら云いました。「誰にも渡さない」
 男の子は黙ったままでした。不意に、この子は、このまま永久に目を醒まさない運命にあるのかもしれないという思いが、頭をよぎりました。
 そして何時ものように男の子を自分のベッドに寝かせ、自らはベッドの脇の狭いスペースに丸くなって眠りました。
 気がつくと誰かがリーベリの枕元に立っていました。信じられないことに、それは敬愛する亡きママ・ジュリアでした。「あなたが看病したおかげで、その男の子は目を醒ますわ。それもそんなに遠い未来のことじゃないわ。……この子は由緒ある血筋の人間なのよ。この子は長い眠りから目覚めて初めに見た女性を愛することになるわ」
「ママ!」とリーベリは叫ぼうとしましたが、何故か水中で泳いでいるように自分の声がうまく出せなくて、小さな呟きにしかならないのでした。「ママ! あたし、ずっとママを目標に今まで頑張ってきたの。でも、これからいったいどういうふうに生きていけばいいのかよく分からないの!」
 けれども、ジュリアは微笑を口元に浮かべながら、暗闇の向こうへゆっくりと消えて行ってしまいました。
 リーベリは目を醒ますと部屋の中を見回しましたが、相変わらず男の子がこんこんと眠っている以外、起きている者は自分ひとりだけでした。ジョーニーも元物置部屋の名残のがらくたの山に背をもたせて眠り込んでいて、ジュリアを見た様子もありません。
 夢のようでしたけれど、余りにも輪郭がはっきりしていたので、夢とも思われないのでした。どうしてあんな幻を見たのだろう? 男の子の具合が良くなって欲しいという自分の気持ちが強すぎるせいだろうか? 夜の濃密さが薄れ、東の空が灰色に変わりはじめていました。ストレイ・シープが目を醒まして、リーベリの傍に寄って来ました。「ストレイ・シープ、あたしの亡くなったママ、ジュリアを見なかったわよね?」とリーベリが訊きましたが、ストレイ・シープは小首を傾げて、「いいえ、見ないですが」と戸惑ったように答えるだけでした。

 リーベリはろくに食事もとらずに男の子の枕元から離れずに看病しました。自分がいない間に容態が急変したりしたらと考えると不安で仕方なかったのです。
 リーベリはよく男の子に話しかけていました。話しかけることにより治りが少しでも早くなるような気がしたのです。現実には、まだこの男の子とひとことも口を聞いていませんでしたけれど、想像の世界では、リーベリと男の子は既に離れがたい恋人となっているのでした。
 男の子の意識が戻って外を歩けるようになったら、まず最初に何処に連れて行こうかな、などとリーベリは目が醒めた後のことをひとり心に思い描いて愉しんでいるのでした。

 

 

 

 

 

 

ー⑲ーにつづく

 

 

 

 

 

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