『果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語ー⑭ー』にゃんく | 『にゃんころがり新聞』

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果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語

ー⑭ー

 

 

 

 

 

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Ⅴ 神様が下さった宝物

 

 

 

 リーベリは二十一歳になっていました。
 今やリーベリは村人たちも驚いてしまうほどの力量を持った魔女に成長していました。リーベリの師匠は依然としてジュリアだけでした。正確に云えば、ジュリアが遺してくれた魔法の教科書だけでした。それを使いひとりで毎日修行を重ねてきました。でもリーベリに対しての村人たちの評判は散々なものでした。何故ならリーベリは病人を治す魔法を使えるのに、それをわざと使わないからでした。村人たちにとって、それは理不尽で訳が分からないことでした。リーベリが自分たちに意地悪をしているようにしか思えませんでした。

 

 毎日、ほとんど同じことの繰り返しでした。
 小間使いのお仕事に出掛けて、帰って来たら家事をこなし、僅かな時間で魔法の修行をする、そして綿のように疲れた身体をベッドに横たえたらすぐに朝がやって来て再びお仕事に出掛け……。
 リーベリはお仕事で稼いだお金のほとんどをケイに渡していましたので、自分の手元に残る金額は微々たるものでした。それでもケイに感謝されたことは一度だってありませんでしたし、むしろ「金額が少ない」といつも小言を云われる始末でした。

 

 今部屋の中でリーベリの傍らにはジョーニーというピエロの人形がちょこんと坐っています。ジョーニーは、赤い鼻、赤い唇、青い瞳を持ち、左目の付近にはハート型の黒い模様が入っています。
「あたしの夢は、世界一の魔法使いになることなの。もっと色んな魔法が使えるようになったら、この家を出るつもりよ。ママが生きていた頃みたいに、また楽しい生活を送りたいの」
 とリーベリが話しかけると、ジョーニーは赤い鼻をぴくぴく動かして、
「リーベリ様なら、きっとなれますよ」と云ってくれるのでした。
 ジョーニーは何時頃からか、リーベリに出来た仲間のひとりでした。村のごみ捨て場に捨てられていたのをリーベリが家に持ち帰り、埃まみれだったので水洗いし、日向ぼっこさせてきれいにしました。そうして、元々この人形には心というものがありましたので、リーベリがその心を解き放つ魔法をかけてあげたのです。現在では、歩いたり眠ったり食べたり欠伸をしたりと、ジョーニーは人間と寸分違わない動作と感情を持つようになっていました。
「もしも、あたしがこの家を出たら、ジョーニーはどうするの?」
  ジョーニーはほとんど即答しました。
「おいらも、勿論、リーベリ様とご一緒します」
  リーベリは相好を崩し、「あら。無理しなくていいのよ。あなたの好きにすればいいんだからね?」
「おいらには、もともと行く場所なんてないですから」
 部屋の隅の藁の上で黒い翼を休めていたカラスが起き上がって数歩隣にある小皿の上に屈み込みました。その小皿がカラス専用のトイレなのでした。
「ストレイ・シープ。ごめんね。起こしちゃった?」
 ストレイ・シープは閉じていた目を眠そうに開いて云いました。
「……いいえ、大丈夫です。僕はいつでも眠れますから。それよりリーベリ様の方こそ、早くお休みになられた方がよろしいのではないですか? 明日も朝早くからお仕事に行かないといけないですよね?」
「ありがとう。そうね。もうこんな時間ね。そろそろ寝ないとね」
 ストレイ・シープは寝床の藁の上に戻ると、再び身体を丸めました。ストレイ・シープは、目を閉じてしまうと鳥というよりただの真っ黒い羽根の固まりに見えました。ストレイ・シープが呼吸をするたび、黒い羽毛で覆われた身体が大きくなったり縮んだりしました。
 ストレイ・シープは、ジョーニーがリーベリの仲間になった少し後にこの部屋に居着くようになりました。或る寒い冬の日に、仲間からはぐれて道に迷い、リーベリの部屋の明り取りの下でクークー鳴いているところを暖かい部屋の中に入れてもらったのです。
 そもそもストレイ・シープはカラスのくせに方向音痴でしたので、ひとりで群れに戻ることも叶いませんでした。ストレイ・シープの身の上話を聞いたリーベリが、「いてもいいわよ」と云ってくれたので、ストレイ・シープは毎日リーベリの部屋で寝起きして、餌ももらえる身分になりました。
  はじめこのカラスには名前がありませんでした。方向音痴で大人しい子羊のようなカラスでしたので、リーベリが迷える子羊(ストレイ・シープ)と名付けました。

 

 

 

 

ー⑮ーにつづく

 

 

 

 

 

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