『果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語ー⑬ー』にゃんく | 『にゃんころがり新聞』

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果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語

ー⑬ー

 

 

 

 

 

にゃんく

 

 

 

 家に帰り着いた時には、何日も家出をしていた迷い犬のように全身汚れ、傷だらけになっていました。
 皆、寝静まっている様子です。誰もリーベリがいなくなったからといって心配して起きているものもいませんでした。せめて疲れ果てた今は、ケイに問い詰められなくてよかった、とリーベリは思いました。
 水瓶に首を突っ込んで、水を際限なく飲みました。喉が渇いて仕方ありませんでした。
 リーベリは自分の部屋に戻ると、倒れ込むように寝床に横になりました。それから昏々と眠り続けました。

 

「昨日いったい何処に行ってたのよ?」
 翌朝、寝惚け眼のリーベリの枕元にケイが立ちはだかり、キンキン頭に響く声で話しています。「具合が悪いって云うから、休ませてあげていたのに、外をほっつき歩くなんて、いったい何を考えているのよ!」
 サボってないで、さっさと起きなさい! ケイの叫び声がします。リーベリは起き上がろうとしましたが、頭がクラクラします。また熱がブリ返してきているようでした。正直このままお仕事に出掛けると、まずいことになるのは明白でしたけれど、ケイのこの血相では話が通じなさそうでした。視界が歪む中、リーベリは支度をして勤め先に出掛けました。そう気温は暑くもないはずなのに、全身汗びっしょりになりました。お邸で掃除をはじめましたけれど、なかなか帰れる時間にはなってくれませんでした。まだお皿洗いや料理など、やらなければならない仕事は山ほど残っているのです。頭がぼうっとかすんで来て、すこし意識を失ったようでした。気がつくと、目の前にお医者様がいました。
「この子ったら、昨日いちにち外をほっつき歩いて、仕事となると倒れてみたりするのよ」
 部屋の中にはケイもいましたし、伯爵の奥さんの顔も見えました。
「具合はどうかな?」と頭の毛が真っ白の、お爺さんのお医者様は云いました。
「頭が痛くて、吐きそうです」とリーベリは云いました。
「あ?」
 お爺さんのお医者様の隣にはぴったりと太った看護婦さんが寄り添っていて、リーベリの云った言葉をお医者様の耳元で復唱しました。「頭が痛くて、吐きそうだそうです!」
「ふむふむ。他には?」とお医者様は半分眠ったような顔で云いました。
「喉がヒリヒリします」
「ん?」
 お爺さんのお医者さんが眉をしかめると、また太った看護婦さんがリーベリの言葉を大きな声で繰り返しました。「喉がヒリヒリするんですって!」
「なるほどなるほど」
 お医者様は鞄の中から短い銀色の棒を取り出して来て、「はい、あ~ん」と云いました。リーベリが口を開けると、お医者様はその棒でリーベリの舌を押さえて口の中を覗き込みました。「喉が腫れているね」
 診察が終わると、お医者様はお薬を残し、ケイたちに、「しばらく安静にさせなけりゃなりませんぞ」と云って、太った看護婦さんと一緒に隣町まで帰って行きました。ジュリアが亡くなってからは、村に急患が出ると、こんなふうに隣町からわざわざお医者様が一時間以上もかけて診療にやって来なければならなくなっていました。
「先生、ありがとう御座いました」というケイの声がベッドで寝ているリーベリの耳元まで聞こえて来ました。
 夜になるとアイドリとご近所の男の人のふたりがかりで担架でリーベリを家まで運びました。途中、担架がひどくグラグラと揺れてリーベリは吐きました。

 

 

 

ー⑭ーにつづく

 

 

 

 

 

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