『果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語ー⑪ー』にゃんく | 『にゃんころがり新聞』

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果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語

ー⑪ー

 

 

 

 

 

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Ⅳ 不穏な力

 

 

 リーベリは闇の中をひとり飛んでいます。方向は間違っていないはずでしたけれど、ふとした瞬間にまるで見当違いの方角へ向かっているような気になることがあるのでした。
 時々水気を含んだ鳥の体に触れる冷たい感触がして身震いしました。リーベリが飛んで来た方向を振り返ると、既にその動物は何処かに去ってしまっていて、姿が見えなくなっているのでした。
 地上にはたくさんの黄色い光の目が煌煌と並んで輝いているのが見えました。おいしい獲物が落ちて来るのを今か今かと待っている野蛮な狼や憎たらしいハイエナのような動物たちが待ち伏せをしているのだとリーベリは思いました。
 エミリさえいなくなればミーシャは昔のように自分のものになる。自分にとってエミリを殺すくらいわけはない……。気がつくと、リーベリはそのような怖ろしい妄想を頭の中に抱いていました。リーベリは頭を振ってその妄想を払い除けました。
 目眩がひどくなり、どうしても飛び続けていることが出来なくなって地上に降り立ちました。少し休憩を入れよう。灌木がまばらに生えたじめじめとした地面にリーベリは腰を下ろしました。土の水分が布の服を染み通って素肌に冷たく感じられます。
 そこで目を閉じてしばらく休んでいると、リーベリはいつの間にか眠りこんでしまっている自分に気付くのでした。リーベリはやわらかい毛布にくるまれて、ふわふわのベッドの上で寝ている夢を見ていたのでした。
 眠ってはいけないと思うけれど、体が云うことをききません。疲労が払いのけられないぶよぶよの脂肪のように自分のまわりにくっついている気がします。
 動物の遠吠えが意識の隅っこで聞こえて、はっと我に返りました。獰猛な肉食獣に違いありません。ご馳走の出現に喜んでいるような吠え方です。仲間を呼び寄せるように、短く、何度も何度も吠えています。そしてその遠吠えは徐々に近付いて来ていました。
 その時敏捷な羽を持った生き物が、リーベリの鼻先をかすめました。リーベリの頬から生暖かい感触の液体がじっとりと垂れました。
すぐにひりひりする痛さが後からやって来ました。傷つけられた頬から血が流れ出ていました。
 見ると、頭上でリーベリを狙い撃ちするかのようにかなりの数の黒い影が木の枝という木の枝に逆さにぶら下がっています。それは悪魔のような名前も分からぬ動物でした。黒い羽に身を包み、ゆらゆらと風に揺れています。狂った犬のような顔に、吸血鬼に似た牙がのぞいています。
 草を踏み倒す跫音がして、音のする方へ頭を向けると、別の怖ろしい顔つきの獣が涎を垂らしてリーベリを見ながら喉を鳴らしていました。その獣はふたつの目を黄色に光らせています。
 リーベリは最後の力を振り絞るように立ち上がり、獣から逃れるため数歩行きました。けれど、リーベリが逃げようとすればするほど獣は追いかけて来て低い唸り声をあげながらリーベリとの間合いを狭めて来ます。
 リーベリは木の根を背中にして、立ち尽くしました。
 家に帰っても居場所のない自分は、いっそこのまま動物たちの餌になってしまった方がいいのかもしれない。あたしがいなくなっても、誰も悲しまない。生きることは、辛くて苦しいだけだもの。これ以上、それが続いていったい何になるというの?
 リーベリは空を仰ぎました。
 上空には果てしない闇が広がっていて、その中に一点だけ、美しく輝く月が浮かんでいました。
 空を仰いでいると、自然と涙がこぼれてきました。
 ふと気がつくと、目の前に神々しい光に包まれた人間が立っていました。最初その像は涙に滲んでいましたが、若々しく親しみ深いその女性が、次第に亡くなったジュリアその人であることが分かってきました。リーベリは吃驚して声も出ませんでした。
 ジュリアは死ぬ数週間前の姿とほとんど変わっているところがありませんでした。ジュリアは静かに話しました。
「あなたは自分の内なる秘められた力に気付いていないわ。自分の力に自信を持つのよ」
 ジュリアは手をリーベリの胸のあたりに差し伸べました。「これはあなたの中で眠っているあなたの力。私はそれを思い出させてあげているだけ……」
 今やリーベリの胸のあたりがじんじんと熱くなっているのでした。
「さあ。このまままっすぐ家にお帰り」
 ジュリアはそう云うと、微笑みの残像を残したまま消え失せてしまいました。気がつくとあとにはただ何処までも続く暗闇だけが広がっていました。もっと話したいことがたくさんあったのに。リーベリはとても残念に思いました。
 黒い羽を持った悪魔たちはリーベリの頭上を旋回し続けていました。ジュリアが触れたリーベリの胸のあたりは、まだ怖ろしいような力が漲っています。
 帰れる。
 無限の力が溢れて来て、楽しいくらいなのでした。

 

 

 

 

 

ー⑫ーにつづく

 

 

 

 

 

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