『果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語ー⑧ー』にゃんく | 『にゃんころがり新聞』

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果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語

ー⑧ー

 

 

 

 

 

にゃんく

 

 

 

 

 

 

 ミーシャの母親と別れると、リーベリはとぼとぼと家に歩いて帰りました。
 何故ミーシャは異国の地に旅立つ時、自分にひとこと声を掛けて行ってくれなかったのだろう?
 会いたいと思い続けてきたのに、今迄一度も会えなかった。こんな毎日を送っていたら、今まで通り会えないだろうし、これからもずっと会えないに決まってる……。
  リーベリにはミーシャがどんどん自分から遠ざかって行くように思えました。
 どちらにしろ、今日一日はお休みをもらったのです。
 家で寝て過ごしても、ミーシャに会いに行っても、同じ一日に違いはありません。
 それならあたしはミーシャに会いに行こう。
 今まで一生懸命お仕事もしてきたわ。
 これくらいの我が儘なら、誰にも迷惑かけないし、いいでしょう、お義母さん?
  リーベリは心を決めると、「すこしおでかけしています。しんぱいしないでください。りーべり」と書き置きを残し、箒に跨がるや否や、空に飛び上がっていました。そして、ミーシャに会いたい一心で空を飛び続けました。途中で力尽きてしまうかもしれないことが気懸かりではありました。何しろ、元気な時ですら、今挑戦しているような長い距離など飛んだことがないのです。

 

 しばらく行くと、眼下に見渡す限りの湿原が広がって来ました。飛行が長引くにつれて気が遠くなり、何度も湿原に吸い込まれそうになりました。そのたびリーベリは自分の頬を打ち、正気を取り戻そうとしました。
「眠っちゃ駄目よ。ミーシャの家に辿り着くまでの辛抱よ」
 何とか自分を励ましながら飛びました。
 リーベリが空を飛んでいる姿を真横から見たら、リーベリの飛行がいかに上下にふらついているか分かったことでしょう。
 陽が傾きかけた頃、地上の世界は草原に変わっていました。キツネや馬や猿など様々な動物たちの姿が地上近くを飛んでいるリーベリの目からも見ることができました。
 まだ道は半ばでした。此処まで来ると、もう引き返すことは考えられなくなりました。でも、帰り道のことを考えると気が重くなるだけでしたので、今はミーシャの家まで辿り着くことだけに集中するようにしました。それ以外のことは頭の片隅にリボンで括って蓋をして置いておけばいいわ……。
 日が沈むと、気温がかなり下がってきました。
 身体は冷えて怠いのに、頭は火照って悪い夢でも見ているように視界がぐらぐらするのでした。
 もう少し。もう少し。
 何度自分に言い聞かせたことでしょう。
 ようやくミーシャの住んでいる町に着きました。
 リーベリは空から舞い降りると、通りがかりの町の人が、「魔女だ!」と叫び声を上げました。リーベリはそんな声など聞こえないように、ひたすらミーシャが住んでいるという白い小さな家を探しながら歩きました。本当のところ、リーベリはこの時倒れ込んでしまいそうなほどへとへとに疲れていたのです。
 そこはリーベリの住む村とは違って、だいぶ開けているようでした。
 往来には野菜売りが使っていたらしい屋台がありましたし、魚屋さんの看板を出したお店もありました。その他には果物屋さん、肉屋さんなども軒を連ねていました。ミーシャがよく通っている店もこの中にあるかもしれませんでした。「ミーシャの家は何処にありますか?」と肉屋のご主人に尋ねたら、「ああ、ミーシャの家はすぐそこだよ」と教えてくれそうな気がしました。
 でも、肉屋はすでに閉店していましたし、その他もほとんどが店仕舞をした後でした。
 通りには家路を急ぐ人の姿が二、三あるだけでした。
 家々には明かりが灯っていました。家の中からは幸せそうな子供の話し声が聞こえて来ました。
 リーベリは石畳の上を、ふらつく足取りを速めて、ミーシャの家を訪ねて歩きました。
 そうこうするうちに夜は更けて来て、通りは薄暗くなりはじめました。
 ミーシャの母親から教えてもらった番地や地図での位置も、あまり役に立ちませんでした。ただリーベリは白い小さな家だけを目当てに夜の闇の中を手探りで歩きました。
 ほんとうに此処がミーシャの住んでいる町なのだろうか? 自分は全く見当違いの場所に来てしまったのではないだろうか? そう思いはじめた頃、かわいらしい木製の手作りの郵便受けにNのアルファベットが彫られている三角形の家をリーベリは見つけました。白い小さな家でした。やっと見つけた。此処がミーシャの住んでいる家なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

ー⑨ーにつづく

 

 

 

 

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