『果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語ー⑦ー』にゃんく | 『にゃんころがり新聞』

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果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語

ー⑦ー

 

 

 

 

 

にゃんく

 

 

 

 

 

 そう云えばすこし前、リーベリが十五歳になってすこし経った頃のことですが、こんなことがありました。
 あまりケイがリーベリのことを馬か何かのように酷使するので、普段は口を出さないアイドリが、珍しくケイに意見をしたことがありました。それはあんまり可哀想じゃないか、と。
 リーベリは居間に行こうとしていたところに、ふたりが自分のことを話している様子だったので、戸の陰に身を潜めてふたりの会話に耳をそばだてていました。
 その時のケイの怒りようといったらありませんでした。凄い剣幕で、
「あの子の存在理由は、すこしでも仕事をすることしかないじゃないの? それを止めさせるだなんて、いったいあなたは何を考えているのか、私には全く分からなくなったわ。あの子が働く手をすこしでも休めると云うのなら、私はあの憎たらしい子を、今すぐにでもこの寒空の下にほっぽり出したいくらいなのよ」
 外は食べる物もない凍りつく冬でした。吹雪が吹いている中に一時間でも立ち竦んでいると、命に関わる危険性もありました。
 アイドリはケイの怒りに恐れをなして、それ以上その話題を続けることをあきらめたように黙り込みました。
 リーベリは跫音(あしおと)を立てずにそっと自分の部屋の中に隠れました。ケイは子供たちが寝静まっていると思っていたのか、あけすけに自分の本心を晒していましたが、リーベリはすっかりその会話を聞いてしまったのでした。

 

 

 

 

 リーベリはほとんど休みもなしに働いていました。
 そんなリーベリも、或る日、高熱を出して寝込んでしまいました。
 やむなくその日のお仕事はお休みさせてもらって、自分の部屋のベッドの中で眠りました。
 何時間かぐっすりと熟睡した後、リーベリはふと目を醒ますと、身体が随分楽になっていました。
 起き上がって家の中を見回しました。誰もおらず森閑としています。
 あたたかい日差しが明り取りの外に溢れていました。ティータイムをすこし過ぎているようでした。
 再び寝床に横になって、リーベリはまんじりともしないで天井を見詰めていました。
 リーベリはミーシャと別れてから、ミーシャのことを片時も忘れた日はありませんでした。どうにかして会いたい、少しだけでもいいから話がしたい、そう思い続けてきました。
 そんなリーベリの気持ちに歯止めをかけていたのがケイの言葉でした。
 もしミーシャに会いに行ったことがケイに知れると、リーベリはこの家を出て行かなければならないのでした。
 これまでその禁止を犯す勇気も機会もなく今日まで来ましたが、ミーシャと別れてから既に二年が経っていました。
 会うのなら、今日しかチャンスはないとリーベリは思いました。
 そう思いはじめると、どうしても会いに行きたくなりました。もし見つかると、大変な罰が待っているはずでした。でもリーベリはそんなもの、もうどうでもいいと思いました。あたしが会いたい人に、会いに行くのだから。誰にもそれを止めることなんて出来ないわ。
 懐かしいミーシャ。
 リーベリは足元をふらつかせながら、ミーシャの家がある隣村まで歩いて行きました。
 道々の花々が祝福するかのように色取り取りに咲き乱れていました。
 そしてようやく教会の尖塔が見えて来ました。此処まで来るとミーシャの家はすぐそこでした。
 胸を高鳴らせながら呼鈴を鳴らすと、今十五歳になっている筈のミーシャの弟が戸口に現れました。ミーシャの弟はリーベリの姿を見ると、「こんにちわ」と云って、懐かしそうな顔をしました。ミーシャの弟はそのまま家の奥へ消えて行き、代わりに松葉杖をついた、最後に見た時より幾分老けた感じのする奥さんが姿を現しました。
「あら、……リーベリさんじゃない? こんにちわ」
「こんにちわ」
「しばらく見ない間に、すっかりきれいになったわね。幾つになったの?」
「十六歳です」
「亡くなったお母さんによく似てきたわ。あの方はとても美しい方だったもの」
「ありがとう御座います。あの、ミーシャは?」
「ああ、ミーシャね。あの子は今、この家にはいないの。勉強のために外国にいるのよ」
「外国?」
「王宮の募集してる留学第一期生の試験に合格したのよ。あの子、ろくに勉強もしてなかったのに。ついてるでしょ? 今地図を持って来るからちょっと待っててね……」
 ミーシャが住んでいるのは、此処から北東の方角にある国境を越えた異国の町でした。それは歩いて行けば数日はかかる遠い場所にありました。魔法を使って空を飛んでもいいのですけれど、そうするにはかなりの体力が必要でした。病んだ身体にはその飛行は無理でした。

 

 

 

 

 

ー⑧ーにつづく

 

 

 

 

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