『果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語 ー③ー』にゃんく~執筆と構想に1年以上かけた渾身作 | 『にゃんころがり新聞』

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果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語

ー③ー

 

 

 

 

 

にゃんく

 

 

 

 

 

 

 リーベリは、九歳になると、隣村のエフエル村のN宅でお手伝いさんとして働くことになりました。この時代、子供たちが働きに出されること自体、珍しいことではありませんでしたけれど、それでも九歳というのは早い方でした。
 普通その年齢の子供たちはまだ村の老人などが読み書きを教えてくれる地域の小さな学習所のようなものに通うことになっていました。ケイから命令された家事をこなすために、その学習所にも行けないことが多かったのですが、お手伝いさんとして働くことになってからは結局一度も学習所に行くことが出来なくなってしまいました。
 そうして学習所での同年代のお友達とも顔を合わさなくなり、彼らと次第に疎遠になっていき、リーベリはますます孤独になりました。
 勤め先での仕事が一段落しても、次は実家での仕事が待ち受けていました。リーベリは毎日の仕事に追われて疲れ果てていました。でもいくら疲れていても、ジュリアが遺したノートだけは開かない日はありませんでした。たとえ数行しか読むことが出来なくても、ジュリアのような魔女になるために毎日寸暇を惜しんで修練を積みました。そこには丁寧な字でジュリアの使える魔法のほとんど全てがびっしりと記載されていました。「私に万一の事があった時のために」とジュリアは長い年月をかけてそのノートをリーベリのために完成させてくれたのですが、もしかしたらジュリアは自分の命がそう長くないことを予感していたのかもしれないとリーベリは成長してから考えることがありました。
 満足がいくほど学習所にも通わせてもらえなかった為、リーベリにはジュリアの書いた文章の意味が理解出来ないこともありました。そういう時にはリーベリは国語の勉強から始めなければなりませんでした。勤め先のN宅の子供たちは六人兄妹で、朝目覚めてから夜眠りに就くまでほとんど騒ぎっぱなしの騒々しさでしたけれど、長男のミーシャはリーベリと同い年でした。リーベリはミーシャよりよほど勉強が遅れていました。リーベリはミーシャから要らなくなった読み書きの綴り方の練習帳を貰い、家に帰ってそれを使って夜更けまで勉強しました。
 N夫妻は、やんちゃ盛りの六人兄妹の中でも(いちばん下の妹はまだ0歳の赤ん坊でしたが)とりわけ長男のミーシャにはほとほと手を焼いているようでした。ミーシャは村の悪ガキとつるんで教会に行っては高価な像をこっそり壊してきたり、売り物の野菜を見つからないように盗んで来たりしたからです。そんなミーシャが、リーベリの袖を引っ張って、外に遊びに行こうと誘うのでした。
「リーベリさんには大切なお仕事があるのよ」とミーシャの母親がいくら諭しても、ミーシャには馬の耳に念仏でした。最後には母親の方があきらめて、ミーシャの手に引かれリーベリは家事から解放されるのでした。

 

 ミーシャとリーベリはふたりで色んな場所に遊びに出掛けました。夏は着替えを持って、エフエル村のきれいな小川の流れる場所まで行きました。色とりどりの魚たちが泳いでいる中でふたりは小川で遊びました。冬は降り積もった雪を掻き集めて自分たちの身長と同じくらいの雪だるまを作ったり雪合戦をしました。悪さもしました。痛快だったのは、教会で一度ミーシャの頭を叩いたことのある神父さんに泡を吹かせたことでした。昔、その太っちょの神父さんは、教会の中でお祈りもせずに子供たちだけでペチャクチャお喋りをしているミーシャの後ろにやって来て、ミーシャの頭を叩いたことがあったのです。そのことがあったので、ミーシャはいつか仕返しをしてやろうと考えていました。
 或る日、ミーシャはリーベリと一緒に、その太っちょの神父さんがいる教会にこっそり忍び込みました。そして、教会全体を叩き起こすような乱打の鐘を撞き、逃げ出したのです。神父さんは何事が起こったのかと吃驚して出て来ましたが、すぐに下手人が知れると、怒ってふたりを追いかけて来ました。でも神父さんは赤ん坊が生まれるかのようなお腹を抱えています。少し走っただけでもう立ち止まってゼイゼイと荒い息を吐いていました。ふたりは安全な場所に逃げると、お腹を抱えて笑いました。
「もう止めましょう、こんなこと」精一杯笑った後、リーベリはミーシャに云いました。「人を揶揄って遊ぶのは良くないわ」
「これで最後だよ。ぼくの頭を叩いた仕返しさ」
 とミーシャは勝ち誇ったように云いました。

 

 悪さばかりしていたわけではありません。ミーシャが喜ぶので、リーベリはミーシャに魔法をかけるのを見せてあげたりしました。ミーシャは何回リーベリから教わっても、いっさい魔法というものを使えるようにはなりませんでした。多分血のせいもあるのでしょう。いくら努力しても、魔法を使えるようになる人とならない人が世の中にはいるのです。ミーシャはリーベリが指の先で灯した蝋燭の焔の鮮やかな色に、いつまでも見惚れていました。
 その逆に、ミーシャがリーベリに請われて読み書きを教えてあげることもありました。ふたりは草原に寝転がったり、仰向けになって熱心に勉強したり、お喋りをしたり、疲れたら昼寝をしたりしました。名前もわからない鳥が聞いたこともないような美しい旋律の鳴き声で歌っていました。

 リーベリは毎日の出来事を残らずミーシャに話して聞かせました。家で義母に冷たくされていること、学習所に行かせてもらえないこと……ミーシャはリーベリの大切な話し相手であり、かけがえのない友達でした。ミーシャはリーベリの境遇に同情し、また憤慨してくれました。その話を聞いてからミーシャは自分の家ではリーベリを粗略に扱わないよう母親に頼みました。そのおかげでN宅でのリーベリの仕事量ははじめの頃に比べるとかなり楽なものになりました。また、リーベリは実家では食べさせてもらえないようなケーキなどのお菓子をよばれたり、夕食も一緒に誘われてご馳走になったりするようになりました。
 ミーシャの母親もリーベリが真面目に仕事をしますので、リーベリのことを気に入ってくれているようでした。

 

 

ー④ーにつづく

 

 

 

 

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