小指のその後 | /// H A I H A I S M ///

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あわてない、あわてない。赤ちゃんが「はいはい」するように、のんびりゆっくり進みましょう。

遠い昔、ボクがまだ21歳の頃、ボクは沖縄の石垣島に遊びに行った。食事を済ませて外に出ると、石垣港の少し人通りの少ない辺りでチンピラ風の男達に女の子がからかわれている。

----- ボクはさぁ。そういうの大っ嫌いなんだよ。

----- えぇ? なつむぎさん、それでどうしたの?

----- どうしたって…… 彼らのところに行って、「止めなよ」って言ったんだ。

----- わっ、すごい! すてき! なつむぎさんって、男気があるのね。

----- まぁね。いい加減止めないと、オレのマグナムが黙っちゃいないぜ、ってね。

----- え? マグナム? (この辺りで、女の子達はいぶかしげな表情になる)

----- そだよ。そしてボクが脇腹に隠してあったマグナムを取り出そうとした時に、奴らに先手を打たれたんだ。一番ヤワだと思っていた男にマグナムを蹴り落とされて、その後、しばらく意識がなくなるくらいボコボコにされた。

----- っていうかぁ…… マグナムってなに?

----- あ、そこから説明しなくちゃならないの? まぁつまり、ボクのほら、ここのアゴのところに傷があるじゃん? これ、その時の傷だってこと。


ボクのアゴには5センチ程の傷がある。沖縄の石垣島で8針縫ったんだ。本当は原付に乗って島を回っている時にうっかり転けて、運悪く身体が放り出された所に水牛に引かせる鉄製の鋤(すき)があって、そこにアゴを打ち付けたってワケ。

まだ傷が生々しかった頃、女の子も来る飲み会なんか(つまり合コン)で、友人が気を遣ってね。彼女達がボクの顔の傷を怖がらないように作り話をしている内にだんだんとオヒレが付いたみたいだった。

この話を、実は結婚前の女房にもしたみたいだった。

どんどんとエスカレートする武勇伝の、いったいどのバージョンを話したのかは覚えてないけれど、彼女には、ボクがチンピラに絡まれている見ず知らずの女の子を助ける、正義感あふれる男だって印象づけたみたい。

飲み会のときは、ちゃんとその場でネタばらしするんだよ。ボクは自分を自分以上に見せるのは大っ嫌いだからね。でも、どういうワケか、女房の場合にはネタばらしをしなかったみたい。で、そのまま結婚しちまった。

----- えっ!? あの話、作り話だったの?

そだよ。ネタばらし、してなかったっけ? ウソ、○○ちゃん(女房の名前)、忘れてるだけなんじゃん?

*****

さてさて、フエで統一鉄道に乗り込む時に小指を怪我をして(●ここ ●ここ)、早くも2ヶ月も過ぎた。
ハノイの病院に駆け込み手術の契約書まで結んでおきながら、実は手術はしなかったんだ。全身麻酔と、細かいところにメスを入れるリスクを避けて、器具で指を固定することで治療することにした。それでボクはこの2ヶ月間、指に器具をはめ、テーピングで固定して旅を続けた。 ●ここ ●ここ ●ここ

昨夜、イタリアのアンコーナからクロアチアのスプリットに向かうフェリーの船室で、その器具を取り外した。怪我をして丁度2ヶ月目なんでね。

器具を外すと小指はまっすぐではなく、第一関節で20度くらいお辞儀をする。怪我をしたばかりの時のお辞儀は45度くらいだったことから考えれば、改善したと言ってもいいけれど、でもこれでボクの小指はこれからずっと曲がったままなんだな。

まぁ、喜ばしい事じゃないけれど、でもそんな苦痛でもないよ。

その内きっと孫でもできて、おじいちゃんの小指はどうして曲がっているの? って聞かれるようなことがあったら、ベトナムで夜行列車に乗った時の話をしてやることができるじゃないか。

おそらく脚色する。どうせなら面白おかしく。

おじいちゃんは国の仕事でね、 ベトナムの昔の王家の血を引くお姫様を安全な国まで連れ出す仕事をしていたんだ。お姫様に日本人旅行者の格好をさせて列車に乗りこんだところに、敵の秘密警察に見つかって乱闘になったんだ。

----- おじいちゃん、それでベトナムのお姫様はどうなったの?

目をキラキラさせて聞いて来る孫たちの表情が目に浮かぶようだ。

もしろん助け出したさ。おじいちゃんは、4人の屈強な秘密警察を寝台車のデッキから線路に放り出してやったんだぞ。

老人の荒唐無稽な作り話は、話す度に大げさになって行くもんさ。そして成長して行くうちに孫たちには、ほらまたじいちゃんのホラが始まったよ、なんて言われるようになるんだろう。

でもいいさ。老人の昔話と旅行記なんてどうせそんなもの。
見て来たものは実際より美しく、食べたものは実際より美味く、人との出会いは実際よりも学ぶところが多く、そして小さなことにも多く感動するもの。


そろそろだって思ったら、ボクは俳優を2人雇う。家族には内緒でね。
彼らはボクの葬儀に参列して、1人は石垣島で助けられた少女を名乗り、1人はベトナムから救出されたお姫様を名乗る。


女房や、子供達や、孫達の、驚く姿を冥土の土産に旅立つってワケ。



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