●O pato by Budapest Bossanova Quintet
ふぅ。
ようやくブダペストです。ホテルじゃなくてアパートに居ます。
アパートって言ったって、ここで暮らそうってワケじゃないんだ。自炊(スープを温めるくらいだけど)ができて、洗濯ができて、気ままに過ごせるところに時々は居ないと息が詰まるかなって思ってね。それにホテルより安上がりだし。
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いやね。
昨日の事なんだけどさ。ブダペストに来るまでの道筋には、いろんなトラップが仕掛けられていたんだ。それにすっかり翻弄されてしまったよ。
【トラップ その1】
ボクは、9時58分ザグレブ発ブダペスト行きの列車に乗るつもりでホームで待ってたんだ。
ちゃんと席を予約したし、あとは座って車窓を流れる風景を楽しんでいればブタペストだって思ってのんびりしてた。リラックスしすぎてうっかりするとホームで眠っちゃいそうな勢いでね。
すると、そろそろかなって頃合いに列車がホームに入って来たんだけど、これが首都と首都を結ぶ国際列車って感じからはほど遠いポンコツ車両だった。いや、ポンコツなのはこの際どうでもいいさ。
問題なのは列車にもブダペスト行きって書いてないし、ホームの掲示板にもブダペスト行きって出ていない。さらに、ボクの予約席のあるはずの423番の車両が連結されてない。
周りの人たちも何かおかしいなとは思ってるみたいで、ちょっとざわついた感じになっていたな。そんな人たちの言葉に耳を澄ませていると「ブダペシュト」「ブダペシュト」って言ってるのがわかる。そしていぶかしげな顔をしながら乗り込んでいる人もいたり、あるいはまだ迷ってる人もいたり。
さてボクはどうするべきかな?
まずは近くの人に、列車を指差して「ブダペスト?」って聞いてみた。するとそうだって言う。多分。
不安だから別の人にも聞いてみた。するとそうだって言う。多分ね。
駅員さんみたいな人を見つけて聞いてみると、「ブダペスト行きだ、早く乗れ」って感じだった。まぁ、多分なんだけど。
その言葉の中に、なんか autobus ってな単語が混じってるのが気になったんだけど。
バスでは一回失敗しかけたことがあるからな。 ●ここ
昔まだボクがスペイン語を知らなかったころ、ブルゴスの駅でマドリッド行きの列車に乗れなくて、その街に泊まらなくちゃならないことになった記憶もふとよぎったよ。 ●ここ
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結局、その列車に乗り込むことにした。
ボクが座ったコンパートメントには、ボクの他にクロアチア人とイタリア人の若者が居て、それぞれに落ち着かない感じだったと思う。
10分ほどすると車掌が検札に来てね……
車掌はまずクロアチア人の若者になにか説明してる。ボクは目一杯集中して聞いたよ。その会話の中に Budapestとか autobus とかの言葉が聞き取れる。やっぱり、バスが一枚かんでるなって思ったね。
次に、イタリア人に対して英語を話すか車掌が聞き、英語はダメ、イタリア語でって彼が答えると、「あぁイタリア語ね、OK」って感じで車掌は話しはじめた。だけど、どう聞いてもクロアチア語に時々英語の単語が混じってるかなって感じで、全然イタリア語じゃない。
ところが驚いたことに、そのイタリア人は分かった分かったって感じでうなずいてるんだ。
さてボクの番。
車掌は「もう、わかっただろ?」って。
えっ? わかってないですから。この列車はブダペストに行かないんですか? じゃぁどこに行くんですか? バスに乗り換えるんですか? 乗り換える駅の名前は何ですか?
もう分からんことだらけで、いろいろと質問したワケ。彼がなんて答えてるのか良く分からなかったけどね。
ボクは困惑したような表情だったんだろうと思う。彼は最後に英語ではっきりと、
「大丈夫。お前の切符は有効だから、心配するな」
って。そんな事が問題じゃないんだけどな。
最後になって分かった事は、鉄道に不通区間があってその間をバスで移動しなくちゃならなかったってことなんだけど、いやぁドキドキしたなぁ。
でもまあ、あれやこれやがあったけど、バスに乗って、また列車に乗って(これが本来ザグレブからブダペストまでボクを運んでくれるはずの列車)、ブダペストまで無事に到着したってことです。
【トラップ その2】
ブダペスト南駅に到着した後、ヨーロッパの他の言葉と全く別系統の言葉だから文字を見てもな~んも見当が付かないハンガリー語表示の中で迷いながら、地下鉄のチケットを買って、乗って、アパートの管理会社の人との待ち合わせ時間にわずか5分遅れでアパートの前まで来た。
すると会社の人は居ない。案の定ね。
2月にマドリッドでアパートを借りた時もそうだったから、そんなもんなんだろうなって思ったよ。一度経験してると、なんだか余裕がある。電話をかけてボクが到着したことを知らせればいいやって思った。
でもね、公衆電話を探すんだけど、これがない。やっとの思いで公衆電話を見つけて電話をかけると不通。もう1つ知らされていた別の番号にかけると今度は出た。
「あっあのっ! なつむぎです。 日本から来た。 あのっ、あのっ、アパートの前まで行ったんですけど……」
ボクは必死だったよ。両替したてで小銭が少ししか無いからいつ切れるかわからないしさ。
すると電話の向こうはおばあさんの声でね。
----- いやだわねぇ。なんかだか知らんけど、外人さんの電話だわ。
ま、多分ね。そして、ガチャン。
電話番号、間違えて教えられてたよ。なすすべなしだよ。泡くったよ。
さてボクはどうするべきかな?
どうしようもない。
しかたがないのでアパートの前までガラガラとキャスター付きの荷物を引きながら戻った。
すると、ちょうどアパートの警備員が門の近くまで来ていてね。
「警備員は鍵の管理をしてるだけで英語は話しません」って事前にメールで知らされていたけれど、今やボクには彼しか頼る人がいない。必死こいて説明した。
身振り手振りやら、こわばった笑顔やら、テレパシーやらを総動員して。
そして、なんとかアパートに入ることができたってことです。
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何とかなるものだな。人間って通じ合えるものだな。ってのが今回の結論なんだ。
昨日はそんなこんなですっかり気力を使い果たしちゃって、夕食を食べにレストランに行く元気もなくて、近くのスーパーでハンバーガーと飲み物(ってのはビールのことなんだけど)を買った。
部屋着のTシャツと短パンに着替えて、
「なつむぎ。今日は良くがんばったな!」
ってビールを飲みながら自分の労をねぎらった。
そんなところです。ご報告まで。
