いや、その節はどうもって、1年前あなたのお陰でずいぶんと迷惑したんですよ、こっちは。
ウソ八百の勝手な調査報告書を作って女房に渡すものだから、 ●ここ
「あなた。やっぱり愛人がいるのね」ってなもんで、ずいぶんと誤解を解くのに時間がかかった。
ボクに愛人が居るって、あなた、最初から決めてかかっているものだから、
こっちが何を言っても同じ結論になっちゃう。
あなたの調査の仕方は、まるで検察の特捜部だ。
え? 探偵業をやるまえは、特捜にいた? いわゆる、ヤメ検。
なるほどね、って、ヤメ検って、弁護士やってる人のことじゃないの?
特捜にいたなんて、見栄張っちゃだめだよ。
で、今日は何しに来たんですか?
はい? 女房が? 今度こそボクが浮気したんじゃないかって疑ってる?
それで、また調査を依頼してきた?
まったく、よりによってこんないい加減な探偵を雇うとは。女房のやつ、どうかしてるよ。
で、田中さん。女房に幾らもらってるんです?
はい? 着手金として15万円。 ちゃんと証拠があがったら、成功報酬15万円?
それであなたは、成功報酬欲しさに、むりやり証拠を作っちゃうってワケだ。
まったく、女房のやつ、こっちは第3のビールで我慢してるって言うのに、15万円も払うとはな。
もうビールとは区別が付かないなんて言ってるけど、ボクにはちゃんと区別がつくんですよ。
いや、ほんと。これは譲れません。
ビールの話なんてどうでもいい。9月の16日の夜は、どこで何をしてたか、ですか?
おや、もう尋問ですか?
えっと... その日は、あぁ、山中湖の宿に、独りで泊まってましたよ。 ●ここ
そうですよ。独りで。 えぇ、確かですって。
誰か女性と知り合わなかったか、ですか?
いえ。誰とも。
なんですか、また。そのしてやったり顔は。あなた、その顔、得意ですねぇ。
証拠があがってる? その日の出会いについては、自分でブログに書いてるだろうって? ●ここ
田中さん...
あのね。一人旅の夜、もし本当に女性と知り合ったとしても、そんなこと記事にするワケがないじゃないですか。女房も読んでるんですよ。ボクのブログを。
それより、本当に読んだんですか?
ちゃんと、知り合った女性は幽霊だったってオチが付いてたでしょ。
フィクションなんですよ。
え? そんなオチには気付かなかったって?
やだな。足がハッキリ見えない。つまり、足が無かったって書いてあったでしょ。
なんですか? 足は無くても、付け根は有ったんだろうって。
田中さん。あのね。
ボクのブログは上品が売りなんです。そういうシモネタは勘弁してくださいよ。
なんですか、そのイヤらしい笑い。やめて下さいってば。
そりゃ、ボクの記事には所々ウソがありますよ。
でもね。そりゃ、ちょっとした脚色ですよ。
リアルの生活の何かを隠すために、わざわざウソ記事作ったりはしませんって。
なるほど、所々にウソがある。つまり幽霊じゃなくてやっぱり生身の女だったってワケだろ。
って、そりゃないですよ。
ちゃんと証拠があがってるって?
この写真を見てみろって?
困ったなぁ。じゃぁいったい、ボクはどうすればいいんですか。
はい? 15万円でもみ消してくれるんですか?
*****
田中さん。
しかたがないなぁ。こういうこと、今回だけにして下さいよね。
じゃ、女房には内密でってことで。

恋話、してません。
昔から、しないタイプの男でした。
えぇ、今は時々、田中探偵と妄想ごっこをするくらいで。
