![理想的な夏に始まる恋のシチュエーション](https://stat.ameba.jp/common_style/img/home_common/home/ameba/allskin/ico_kuchikomi2.gif)
「旦那さま、また夏になりましたね。旦那さまには楽しい季節が参りました」
「セバスチャン。ワタシの好きな季節は秋なんだよ。いつもそう言ってるだろう」
「いいえ、旦那さま。陽気のことではありませんよ。ほら、いつも夏のはじめには、新しいメイド見習いが何名かやってくるではありませんか」
「あぁ、そういえばもう7月も終わりか。はやいものだな。歳を取るスピードが、年々速くなるような気がするよ。そろそろセバスチャンの年齢に、追いつくんじゃないだろうかね」
「あはは。旦那さま、御冗談を。わたくし、旦那さまのことを心配していたのでございますよ。先月一杯で、朝の紅茶役のモニカが郷里のカルタヘナに帰ってしまって、旦那さまはさぞかしお心落としかと」
「あぁ、そうだった。モニカ... 良い子だった」 ●ここ
「今年はですね、旦那さまの親せき筋のハプスブルク家から2人と、それからロマノフ家の遠縁にあたる娘が1人、やってくるそうですよ」
「なんだ、なんだ。今年は、家柄ばかりが良く、苦労なく育って気位の高い娘だけなのか。セバスチャン。ワタシがそういう娘を好まんのを知ってるだろうに」
「はい、はい。存じておりますよ。もう一人、カナリア諸島のサンタ・クルス・デ・テネリフェから、セリンダという娘を1人呼んでおります」
「カナリア諸島から? よくそんなところに希望者がいたな」
「えぇ、えぇ。旦那さまのために、奨学金を弾んだのでございますよ。健康的な漁師の娘でございます。少年のような快活さがありながら、気のやさしい良い娘だと...」
「ほほう」
「黒いまゆ毛がきりりとしていて、旦那さま好みの娘のようですな。しかし、旦那さまの好みは、バランスを考えてのことですかね」
「ん? セバスチャン。なにもワタシのまゆ毛が薄いことを、そんな遠まわしに揶揄しなくてもよかろうに」
「(小声で)薄いのは、まゆ毛だけでは...」
「なに? セバスチャン。お前は、父の代から我が家に仕えてくれている大切な人だ。だがね。やはり声に出して良いことと、悪い...」
「ディ、Dカップだそうで」
「まいったヤツだな、お前は。ワタシが、女性のバストの大きさには頓着しないということを、知ってるだろう?」
●ここ
「旦那さま、そうは行っても、朝の紅茶係のモニカだって...」
*****
そんな会話を、執事のセバスチャンと交わしたのが1週間前。
8月の初日だった今日の午前中、我が家に新たなメイド見習いが4人やってきた。
まぁ、モニカほどの娘が来ることはないと思ったのだが、
荒削りの洗練というのだろうか、無意識の誘惑というやつだろうか、いや、天真爛漫な悪女というのだろうか。
ワタシの愛犬の「かえで」も、セリンダには歯をむくことなくシッポを振っている。
モニカ以来のことだ。
![ブログランキング・にほんブログ村へ](https://img-proxy.blog-video.jp/images?url=http%3A%2F%2Fwww.blogmura.com%2Fimg%2Fwww130_18.gif)