
枕元に、たくさんのチョコレートと花束が積まれていた。
寝室は、甘い匂いに満ちていて、まるでシロップ瓶の底に沈殿しているような気分だった。
「旦那様、お目覚めですか。
今朝も旦那様にたくさんのお届け物があって、朝から大忙しでした」
と、紅茶を持ってきた執事が言っていた。
「あれ、セバスチャン。今朝は君が紅茶を持って来てくれたんだね」
「はい。旦那様の一番のお気に入りの、朝の紅茶役のモニカは、
旦那様にプレゼントをと朝から厨房に入ったままで」
「モニカでなくても、ジャスミンだって、ロサだって居るじゃないか。
なにも、バレンタインデーの朝に最初に見る顔が、お前じゃなくたって」
「メイドは皆、今日は忙しいのですよ。毎年のことだから旦那様もお分かりでしょうに」
*****
そう。
この屋敷に暮らすようになってから毎年、バレンタインデーの朝はセバスチャンの紅茶で目覚めていたっけ。
ボクが紅茶を飲む間、セバスチャンはプレゼントに付いていたメッセージを、表情を変えずに読み上げる。
「それにしても旦那様、あまりお遊びが過ぎるのはよろしくないですよ」
そんな忠告を、目だけでにやりとしながら言葉にした後、
今朝、屋敷を訪ねてきた女性の中では、何番目が自分としては好みですな、
などと言うものだから、ついつい女性の好みについてやり合ったりする。
そして、港を見下ろすことの出来る、気に入りの部屋で朝食を取っている間には、
ちゃんと順番を守るようにとのメイド長の久美子の指示に従って、
メイドたちが、キスと一緒にプレゼントをボクに渡すんだっけ。
毎年のことになると、これが嬉しい行事なのか何なのか、わからなくなるものだ。
青年の頃、密かに思いを寄せていた女から、
いかにも「義理チョコ」然とした駄菓子屋のチョコレートのようなプレゼントをもらって、
がっかりしながらも、心躍っていたのが懐かしい。
もはや、そういう感情を持つことは出来ないのだろうか...
「おや、モニカ。紅茶はもう、セバスチャンが持って来てくれたよ。
そこで何をしてるんだ。入ってくればよいだろう」
「ご... ご主人さま。こ、これは、私からの...
久美子さんにはどうか内緒にしておいて下さい。しかられますから...」
*****
はい。お題の通りに、妄想してみました。
えぇ、えぇ。私の頭のなかなんて、こんなもんです。
エロ教授と呼ぼうが、エロ男爵と呼ぼうが、エロ殿下と呼ぼうが、どうぞご自由に。
さて、チョコレート風呂にでも、入ってくるかな。
どうせ食べきれないんだからさ。
