『ロゴスドン』Webの連載「「裏日本」文化論」を更新しました。
第39回
〈山の女神〉
霊峰白山の女神は、白山比咩大神あるいは菊理姫神と呼ばれ、白山信仰における最も重要な祭神とされている。
白山のみならず、日本において山の神は、大体女神とされてきた。しかも多くは、嫉妬深い女神とされてきた。
山の女神が、醜い魚オコゼを好むという伝承は、日本各地に広く浸透している。山で狩りなどを行う者が、オコゼの干物を懐に入れたり、竿の先に糸で括りつけたりして出かけると、女神のご加護で目当ての獲物が得られるという。つまり、嫉妬深い女神は、自分より醜い姿をしている深海魚のオコゼを見て気分を良くするというのだ。著名な民俗学者・南方熊楠(1867~1941年)や柳田國男(1875~1962年)もこの伝承に言及している。
一方、女神は、美しい女性に対しては容赦がない。例えば、白山には「融〔とおる〕の姥伝説」というものがある。その大筋は以下のようなものである。
昔、加賀禅定道沿いに登山者を相手にした酒屋があった。そこの老女・融の姥は、美人な娘たちを雇い、店は大変繁盛していた。白山の山頂で商売すれば、さらに儲かるのではないかと目論んだ老女は、娘たちに酒甕を背負わせて、禅定道を登った。その途上、雲の上から、山神が「聖なる山に女たちを連れ込むな」と大声で𠮟った。すると、すぐ目の前の峰に深い亀裂が生じた。一行はこの神のお叱りにも関わらず、さらに山を登っていった。次第に当たりは暗くなり、再び神の激怒する声が聞こえた。老女はこれを聞き流し、小便をして嘲笑った。その瞬間、目の前の道が陥没し大きなへこみができた。そして娘たちは、「美女岩」という石にされてしまった。
このように女性が、山に登った結果、神の怒りに触れ、死んだり、石にされてしまったり、あるいは樹木に変えられてしまったという伝説は多く残っている。
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