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頼政残照…弐

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頼政残照…埋木

目前に一人の若者が肩で息を喘がせて、衣の汚れもかまわず地に伏していた。
冠は落ち髷は曲がり、額から汗止まることなく流れている。

素人を戦に連れてくると、この有様か。

頼政自身、老身を考え具足を身につけてはいない。だが、若い頃より勤め上げた肉体は、まだ血の漲りを覚えている。

皇子は令旨を出した時までは元気が良かったが…やはり色好みしか知らぬお方だった。
『馬には乗れぬ、徒では走らぬ…』と戦には難儀な態度を示しながら、なおも女色は忘れなかった。

頼政は、若い皇子の肩に手をかけ仮陣屋を置いた平等院の門をくぐった。
ここまで従ってきた郎党も五十騎いるだろうか…息子達、従ってきた渡辺党の者共…競、省の武者達。身が出世すれば栄達も安堵されただろう。

日も高まり、すでに平家の追っ手は院の外、宇治川の岸に集結しているようだ。
三百騎あたりか…雑兵も含めたら千を下るまい。
対する、わが身は無勢。

僅かの防御に、宇治川の橋板を外しておいたが、平家の者共…時の声を上げるや、臆せず渡河を試みてくる。
しかも、寄せ手の将は自ら川瀬に馬を入れて瀬を計るとは…おぅ…あの若き侍大将は、上総太夫判官忠綱と見たが…。
武門誉れの一族配下ならば、いずれも劣らぬ精兵に違いない。
大将気取りの平家の若殿腹とは比較にならぬ…のだ。

互いに兵士は徒を組み逆巻く河の中を忠綱の下知に従い、遂に此方の岸に上陸を始めた。
防戦する息子や郎党達の姿が敵方の兵士に次第に囲まれ見えなくなった。切り抜けた者も押し倒され、きらめく刃の下に潰されてゆく。

頼政は緩やかに太刀を腰より外した。抜き開くためではない。先祖より伝わる刀身を雑兵の血で汚すのを避けるためだ。

元服以来、父から譲られ身を離さず帯てきた小刀のみを手に確かめると、頼政は静かにその場を離れ、奥に消えた。

頼政残照…壱

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頼政残照…老木の花

老武将源頼政…彼の娘が嫁いだ先は平家一門に繋がる有力者であった。
その庇護あって、ついぞ進まなかった尉官は三位まで昇進出世した。
往時は歌に励んだものだ…懸命に和歌こそ出世の道と励んだものだった。
だが、武士は朝廷への勤めを離れ覇を争う時代に変わった。
その幾多の合戦で多くの親戚縁者が滅亡していった。
身は唯一人、僅かな親戚と郎党を率いて都に残り、流れに逆らわないように朝廷に勤めてきた…しかし、もはや自ら七十才の年を聞くまま、老境の日々に成り果てようとしている。

思えば、先祖の源頼光も藤原一族の権勢の下、単なる飼い犬に近い存在に甘んじたのだ。
若い貴族が女の元へ通う道中を警護して、夜が明けるまで庭外で待っていたり…思うに、ただ屈辱だったろう。
そんな時代を、武家中心へ変革したのが、あの平清盛だ。

身も、もっと早く気づけば…力のある武家が政治を執って何が悪いのだ…と。


以仁王から…使いが来た?

あの皇子か…世間知らずの割には、身の不遇を恨んでいるそうだ。
もはや色好みしか能もない阿呆だが、最後の賭に利用してみるか。

よし…息子や郎党を集めよう。
誰でも御旗を上げれば官軍だって事を教えてやる。

ふっ…平家が逆賊というのは面白い。

能『芦刈』の話…参

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代々木果超会
平成二十二年五月二十八日
能『芦刈』
シテ 浅見慈一
ツレ 長山耕三

他に仕舞二番

代々木能舞台
五時半開場
六時半開演
前売り4500
当日 5000円

申し込み、問い合わせ。
info@yoyoginoubutai.com

果超会…超の字は転換漢字になくて…あえての誤植。
ご了承のほど。

では…能『蘆刈』の話…壱、弐は単なる番宣の前振りか?

…その通り…。

芦刈…蘆刈のどちらで統一して書くのかブログ中で考えたが。
観世大成版は『蘆刈』で表記され、代々木能舞台は『芦刈』で番組を上げているので、今回は、一応使い分けている。


シテは能面を使わないし…甲斐性のない男の話など好きではない…そんな理由で避ける観客もいれば、役者サイドでも、『あまり俺は舞いたくないんだ…』と密かに話す方もいる。

しかし、この能に関して同じ役者サイドの言葉から引用すると、『芦刈』を演じる側からの見せ場の一つ上げるならば、妻に再会して恥ずかしさに逃げ出してゆくシーン。
ツレの前から、橋掛かりを幕際まで逃げて行く。
滑稽ながらも、実は見せたい型どころ…また、軽快なリズムや様々な舞の風情、展開を楽しむ能でもある…そういう見方も可能だ…。

初夏の宵能…観能後…酒の楽しみ、酔いの導きに是非。