頼政残照…弐 | HOODのブログ

頼政残照…弐

HOODのブログ-100303_1737~00010001.jpg

頼政残照…埋木

目前に一人の若者が肩で息を喘がせて、衣の汚れもかまわず地に伏していた。
冠は落ち髷は曲がり、額から汗止まることなく流れている。

素人を戦に連れてくると、この有様か。

頼政自身、老身を考え具足を身につけてはいない。だが、若い頃より勤め上げた肉体は、まだ血の漲りを覚えている。

皇子は令旨を出した時までは元気が良かったが…やはり色好みしか知らぬお方だった。
『馬には乗れぬ、徒では走らぬ…』と戦には難儀な態度を示しながら、なおも女色は忘れなかった。

頼政は、若い皇子の肩に手をかけ仮陣屋を置いた平等院の門をくぐった。
ここまで従ってきた郎党も五十騎いるだろうか…息子達、従ってきた渡辺党の者共…競、省の武者達。身が出世すれば栄達も安堵されただろう。

日も高まり、すでに平家の追っ手は院の外、宇治川の岸に集結しているようだ。
三百騎あたりか…雑兵も含めたら千を下るまい。
対する、わが身は無勢。

僅かの防御に、宇治川の橋板を外しておいたが、平家の者共…時の声を上げるや、臆せず渡河を試みてくる。
しかも、寄せ手の将は自ら川瀬に馬を入れて瀬を計るとは…おぅ…あの若き侍大将は、上総太夫判官忠綱と見たが…。
武門誉れの一族配下ならば、いずれも劣らぬ精兵に違いない。
大将気取りの平家の若殿腹とは比較にならぬ…のだ。

互いに兵士は徒を組み逆巻く河の中を忠綱の下知に従い、遂に此方の岸に上陸を始めた。
防戦する息子や郎党達の姿が敵方の兵士に次第に囲まれ見えなくなった。切り抜けた者も押し倒され、きらめく刃の下に潰されてゆく。

頼政は緩やかに太刀を腰より外した。抜き開くためではない。先祖より伝わる刀身を雑兵の血で汚すのを避けるためだ。

元服以来、父から譲られ身を離さず帯てきた小刀のみを手に確かめると、頼政は静かにその場を離れ、奥に消えた。