記憶の補完…2
父の同僚であった新島さんに写真を撮ってもらい、初めて見たカメラに不思議と興奮。さらに荷馬車のお馬さんを見てピークに達した私は、心も浮き浮きと帰宅しようと、自宅の前を流れる側溝の上に渡してあるブロックを渡りかけた…だが、歩き始めて半年あまり、つい足を滑らせて板を踏み外し半身から側溝へ落下。大切なヌイグルミはドブの中に。ヘドロの中から何とか拾い上げたものの、とてもドブ臭くなってしまった。
母の証言によれば、このヌイグルミを私は赤ん坊の頃から手放さず愛用していたらしい。この笑顔を見れば、本当に私は楽しそうだ。
しかし、ドブに落ちた瞬間から拾い上げたヌイグルミが妙に汚いものに感じてしまい、この日を境に私は手にしなくなった。
しばらくは部屋の片隅に置かれていたが、引っ越しの際に廃棄されたんだろう。捨てるときに母が『もう、これは要らないの?幼い時分は、とても大切にしていたのにね…。』と聞いていた事を最近になって、急に思い出した。
なんだかね。とてもヌイグルミに申し訳ない気持ちが最近になって募る。手触りを今でも覚えているから、余計に自分の身勝手さが悔やまれる。私はこの後に大病をして長期入院。新しいヌイグルミ(二代目)を愛用するのだが、その二代目は捨てられる事もなく、今でも実家の押し入れ奥に眠っているらしい。
二枚目の写真は最近のスナップ。道路標識がある辺りが撮影時に私の立っていた場所。数十年が過ぎて、もう馬が引く荷馬車も来ないし、撮影してくださった新島さんも他界した。あの時、新島さんが手にしていたカメラは輝いていて、戦争が終わって平和な時代が庶民にも実感されるようになった象徴だった。先の大戦で戦地に行った新島さんは、かなり凄惨な経験の持ち主だった、と父から聞いた事もある。
こうして写真に残った私とヌイグルミ。
しかし、ヌイグルミ愛用の癖は治らず初代から二代目と続くのであった。
記憶の補完
幼い頃の記憶を辿る。どこまで遡る事が可能か。記憶の原点はどこなのだろう。
幼い時代の記憶は、人によって差があるという。乳児時代までの記憶がある人もいれば、義務教育以前の記憶は皆無だ…という人いる。
この写真は私が歩き始めて二歳を過ぎた頃。私は三歳くらいと思っていたが、母に聞くと二歳を過ぎたあたりと証言。
自宅前の道路で父親の同僚氏(新島さん)が撮影してくれたスナップ写真。昭和30年代後半…道は舗装されず、石ころが転がっている。この撮影シーンは鮮明に覚えていて、2時半を過ぎた昼下がり、私は道の向こうからやってくる荷馬車を見ようと外に出た。
すると、新島さんがちょうど出てきて『写真を撮ってあげようね…』と私にカメラを向けた。
私がカメラという機械を見たのは、この瞬間が最初である。
銀色に輝く小さな箱から黒い何が(蛇腹)が飛び出していて、真ん中には丸いガラスが付いている。新島さんは、その機械を丁寧に扱いながら、私を撮影している。
『カメラというきかいを、にいじまさんがもっていて、しゃしんをとるらしい、カメラって小さな銀色の自動車みたいだな…』
この後、お待ちかねの荷馬車がやってきて、馬の熱い体温や荒い鼻息、道に撒き散らされた馬糞のレアな感触と匂いなど…と、ここまでは以前にもブログで書いたが、この後に私は災難に見舞われる。
その記憶が最近になって苦い思いでになってきた。
…続く。
散歩にて
早くも五月も中旬。
しかし、ブログ文章を書く意欲を喪失する出来事が周囲に多発したため、全くの脳内フリーズ状態。
内実は引きこもりだな…と自嘲しながら連休を過ごす。
外は新緑の季節。今を眺めなければ、来春まで待たねばならない。その気持ちだけを支えにして(大袈裟だが)、昼下がりに散歩に出てみた。
ひとまず手ぶらは私らしくもないので、年来の愛機を手にして歩く。
家から駅周辺まで気に入った風景などにカメラを向けつつ行くと、今日は不思議と他人から話しかけられる事が多かった。
そんな道中、駅前で
一匹の犬と杖を持った老人が道端に腰を下ろしている。
老人に挨拶を交わしながら近づく私。
私『この犬は、なんか様子が変だな…?』…老人に犬の年齢などを訪ねてみた。
聞けば、まだ四歳という若い犬なのだが、生まれつき視力と聴力がないのだという。嗅覚しかない生活をしていて、老人に伴われながら散歩に出ているのだ…と。
犬は老人と私との会話も聞こえず、嗅覚で周囲を確認しているようだ。ただ何か光と影の反応は理解しているようで、たまに頭を向ける。
とりあえず老人と犬のショットを撮影してみる。
今日下げている機材がデジカメではなくフィルムカメラ、しかも久しぶりのマニュアル専用機だ。
『今日の、この一枚、意外と責任が重大かも知れないな』…など感じたりしながら二枚ほどレリーズした。そしてフィルム撮影にありがちな一抹の不安を久しぶりに思い出した。
それはフィルム時代には常に抱いていた緊張感でもあった。
最近、私は気合いが抜けていたな…。




