🔳2024セイジ・オザワ松本フェスティバル オーケストラコンサートBプログラム(8/16キッセイ文化ホール)
[指揮]沖澤のどか
[管弦楽]サイトウ・キネン・オーケストラ
ブラームス/交響曲第1番 ハ短調
ブラームス/交響曲第2番 ニ長調
先週に続き松本詣で。折しも台風7号が接近中で、新幹線の計画運休などもあり行けるのかヤキモキさせられたが、結果的に台風の進路が逸れ無事移動できた。それよりOMFを直撃したのは、今週と来週のオーケストラコンサートを指揮予定だったアンドリス・ネルソンスが、健康上の理由で直前に降板したことである。
で、急遽代役に指名されたのが沖澤のどか。音楽祭で居残り再登板のこのパターン、先日のサマーミューザの井上→ノットにそっくり。もちろん沖澤氏とノット氏では立場もキャリアも大きく異なるけれど、この交代劇、私も含め概ねポジティブに受け止められたのではないか。そんな訳で、2週連続で沖澤さんの「追っかけ」に。
ブラームスの交響曲は、SKOが創設以来最も数多く演奏してきたであろう中核的レパートリー。第1番は、冒頭からティンパニと共鳴したコントラバス隊が、巨大な蟲の如くブォンブォンと唸りを上げ凄い迫力。序奏から主部にかけて、張り詰めたアンサンブルが堅固で、鋼のようだ。その辺のやわなブラームスが軒並み吹っ飛ぶこの「強かさ」こそ、SKOの伝統だろう。
この曲のオーボエ・ソロを聴いていると、自然に宮本文昭氏を思い出すほどには、SKOの演奏が刷り込まれている。第2楽章の終盤、コンマス豊嶋氏の、溢れる想いを押し殺したように奥ゆかしいソロに、オケの来し方を聴こうとするのは感傷的に過ぎるだろうか。バボラーク率いる世界一のホルン隊が奏でる最終楽章の序盤は、ほとんどホルン・ファンタジーの様相。
沖澤氏の指揮は、特に変わったことはしていない。それでも普通ではない音がオケから引き出される。最終楽章の2度目の主題からコーダにかけては、魂を揺さぶられる瞬間が何度も訪れた。これは小澤さんが、さらには齋藤秀雄が追求してきたブラームスの「現在」であり、その演奏を聴き続けてきた我々もまた同じ門下の端くれみたいなもの…と、そんなことを実感して泣けた。
30分の長い休憩があり、後半は第2番。SKOの実演で聴くと、「田園交響曲」というより、もっと抽象的・求道的なアンサンブル作品に聞こえる。聴きながら何故か、チャイコフスキーの弦楽セレナーデを連想したのだが、あの作品で磨き上げられたサウンドと同質の匂いがするということだろうか。ベースとなる弦楽合奏にブレが無いので、音楽の体幹も揺るがない。第1番がパトスの発露なら、第2番ではこのオケのロゴスの凄みを感じた。
想像だが、もし予定通りネルソンスが振っていたら、もっと違う匂いがするブラームスが聴けていたはず。しかし代打沖澤が起用されたことで、このオケに脈打つ音楽性がより純粋な形で顕れたのではないか。バトンは確かに受け継がれたのだ。