Noism A moment of――舞踊が私に語ること | 今夜、ホールの片隅で

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東京在住クラシックファンのコンサート備忘録です。

🔳Noism Company Niigata 20周年記念公演「Amomentof」(7/28彩の国さいたま芸術劇場大ホール)

 

[演出振付]金森 穣

 

「Amomentof」

「セレネ、あるいは黄昏の歌」

 

日本初の公共劇場専属舞踊団として2004年に新潟で設立されたNoismも今年20周年。私が初めてこのカンパニーの公演を観たのは2021年7月の「春の祭典」ほかで、それ以来3年ぶりに埼玉公演へ。20周年記念公演となる今回のお目当ては、マーラーの交響曲第3番第6楽章「愛が私に語ること」に振り付けられた新作「Amomentof」である。この曲を使用した舞踊は、以前モーリス・ベジャール振付の舞台映像を観たことがあるが、ベジャールの弟子筋に当たる金森氏はどんな舞台を創り上げるだろうか。

 

無音のまま緞帳が上がると、舞台には1人の女性ダンサー(井関佐和子)がいて、身体を動かしている。そこは稽古場だろうか、舞台上に腰の高さの金属のバーがまっすぐ伸びている。やがて1人、また1人とダンサーたちが現れ、バーを使ってウォーミングアップを始める。その人数が20人を超えた頃、井関さんが指先をふと見上げ、全員の動きが止まる。そこにマーラーの音楽が流れ始める。第6楽章がフルサイズで舞台化される。

 

出ずっぱりの井関さんがソロで、金森さんとのデュオで、あるいは代わる代わる現れるダンサーたちとアンサンブルで踊る。その動きがシンプルに美しい。途中、舞台奥に鏡が現れたり、レオタード姿だったダンサーたちが普段着の服装で登場したり、舞台背景に過去の公演ポスター(?)がずらりと映されたり、色々あった後、最後は音楽が始まった時の稽古場風景に戻っている。全ては彼女がみた一瞬の夢であり、カンパニーの20年もまた一瞬の夢のように…。

 

タイトルの「Amomentof」とは、「A moment of」を縮めた造語とのこと。膨大な稽古の果ての「一瞬」に賭け、そのまま残らずに消えてゆく、舞踊芸術というものの本質への愛、誇り、そして祝福に充たされた30分間。あまりにも儚く、そして切ない。

 

休憩を挟み、ダブル・ビルのもう1本「セレネ、あるいは黄昏の歌」。月(セレネ)をテーマにしたシリーズ作品で、初演時には野外で上演されたそう。「Amomentof」よりも神話的・説話的なドラマ性を感じさせ、腰を落とし足を踏み鳴らす日本的な下半身の動きが目立つ。そして何より印象的なのは、ヴィヴァルディ「四季」をマックス・リヒターが編曲した音楽。この編曲版を聴くのはおそらく初めてだが、あたかもこの舞台のために作曲されたかのように、音楽と舞台とが不可分に一体化していた。