ノット&東響 初物のチャイコフスキー2&6番 | 今夜、ホールの片隅で

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東京在住クラシックファンのコンサート備忘録です。

🔳フェスタサマーミューザ 東京交響楽団 オープニングコンサート(7/27ミューザ川崎シンフォニーホール)

 

[指揮]ジョナサン・ノット

 

チャイコフスキー/交響曲第2番 ハ短調「ウクライナ(小ロシア)」(1872年初稿版)

チャイコフスキー/交響曲第6番 ロ短調「悲愴」

 

東京・春・音楽祭と同じく、今年で節目の20周年を迎えたフェスタサマーミューザ。今やすっかり定着した2つの音楽祭は、同じ年に始まっていたんですね。オープニングは今年もノット&東響によるチャイコフスキーの交響曲で、昨年の3&4番に続き2&6番が採り上げられた。これまで6曲中唯一実演で聴けていなかった第2番を聴ける貴重な機会。

 

この第2番、「小ロシア」というニックネームに馴染みがあったけれど、今回は「ウクライナ」と併記される形に。調べてみると「小ロシア」という呼称には歴史的に複雑な経緯があるようで、昨今のウクライナ情勢が、こんなところにも関連しているのだと実感する(ちなみに「ベラルーシ」よりソ連時代の「白ロシア」に馴染みがある世代)。解説によると、第1・2・4楽章に現れる旋律がウクライナ民謡に基づいている。

 

この曲には作曲者自身による改訂稿があり、そちらで演奏される方が一般的なようだが、今回は1872年初稿版での演奏。予習でよく聴いていたパーヴォ・ヤルヴィ&チューリッヒ・トーンハレ管による演奏と聴き比べてみると、全く別の曲のようだ。第2楽章の行進曲はずっと遅く感じたし、第3楽章スケルツォはチャイコフスキーとは思えないほど無骨で乱雑。そうしたプリミティブな姿をそのまま詳らかにするのが指揮者の意図だろう。

 

後半は「悲愴」。東響によるこの曲と言えば、2015年8月にゲルギエフが振ったチェスキーナ洋子追悼演奏会での演奏を思い出すし、ミューザで聴いたこの曲と言えば、2020年11月にやはりゲルギエフが振ったウィーン・フィルの演奏を思い出す。

 

以前に読んだインタビュー記事が正しければ、ノットはこの曲を指揮したことが無いらしい。そして、敬して遠ざけてきたチャイコフスキーの全ての交響曲の楽譜を、もう一度読み直してみる…とも。なるほど、先週、ブルックナー7番を暗譜で振ったノットが、この日はスコアを見ながら「悲愴」を振っている。

 

この曲にこびりついた悲劇性や、詠嘆調の演奏慣習を排し、一編の交響曲として各パートを再構成した演奏。贅肉を落とした、引き締まったサウンド。当然、最終楽章もアタッカではない。弦も必要以上にしゃくり上げない。終盤、タムタムに続くトロンボーンのアンサンブルの、何とあっさりしたことだろう。余計な設定を削除し、再起動したPCのような身軽さ。ゲルギエフとは全く別の曲に聞こえたが、これはこれで興味深い。