山田太一作品(後) | Novel & Scenario (小説と脚本)

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倉本聰さんのシナリオの特徴はなんと言っても間です。存分に間を取って視聴者に感情移入を促す。丁々発止もなくはないですが肝となるシーンはこの感じ。

展開については最悪の場面を用意してそこに向かうつくりです。どん底に落として再起、感動、カタルシス、というパターン。王道と言えば王道ですね。

しかし山田さんはそういう流れを「もういい」と否定するような発言がいくつかあって(倉本作品を念頭に置いたわけじゃないでしょうが、ともあれ)感動やカタルシスばかりをめざしたわけではない印象です。

あと倉本さんの作品には独特の美学、美意識のようなものがあります。男として、女として、人としての罪悪感。それらがハマる人にはハマる。カリスマ的な人気になる。

しかし美ほど多様な価値観はありませんね。本当に人それぞれ。山田さんはその「それぞれ」を書く作家だと思います。美醜という上下の価値観でなく、様々な考えを対等にするような。

向田邦子さんの作品はムダのないセリフ、凝縮された芸が特徴でしょうか。伝えたいことが薄まらないように余計なセリフを一切書かない、言わせない。演じ方も絞られるような。

キャラクターの設定や個性で物語を縛らず、演者の具現化で説得力を持たせてしまう。キャラクターよりストーリー中心で、ドラマチックな展開のために逆算してキャラクターを動かしたり。

それはフィクションなら多少の差はあれ皆そうでしょうが、名場面だけをつないであいだあいだを大胆にはしょり、納得させる剛腕を感じます。

リアリティーよりクリエイティブを重視してる印象。シチュエーションなども凝っていて、ピンと来る人にはしびれますが、自分にはちょっと「うますぎ」の感じ。

山田作品の感想に戻ります。ちょっと駆け足で。

「高原へいらっしゃい」 これはシナリオ未読です。以前リメイクされた時にオリジナルのこちらが再放送され、それをツマミ見しただけですがやたらおもしろく、「誰の脚本?」とあとで調べたら山田さんでした。こういうことがよくあって、山田さんのドラマは少し見ただけで他と違うとわかります。

「沿線地図」 これはドラマが未見です。「岸辺のアルバム」と同様まず山田さん自身の手で小説が書かれ、それを原作にして脚色、ドラマ化された作品。小説もいいですがシナリオはさらにいいです。子供が始めた同棲、突然子供に自立された親たち、その日々のこまごまだけで面白い。

「想い出づくり。」 若い女性3人の結婚をめぐるドラマです。いま見ると時代を感じる部分もありますが、最近のセクハラ問題などを見るとあまり世の中は変わってないのかもしれません。今でも参考になると思います。主人公3人やその家族のドラマが複雑に入り組んで進行し、先の読めない展開です。これも山田さんの特長ですね。この流れだとおそらくこうなるな、と予測のつくフィクションが多いなかで山田さんの作品は最後どうなるか読み切れない。

「ながらえば」や「冬構え」は名優、笠智衆さん主演の単発ドラマ。老いをテーマにしたドラマはなかなかないと思いますが、実現できたのは山田さんだからでしょう。「ながらえば」は老人の冒険、「冬構え」は若者との絡みがあって若い世代も楽しめます。そしてシナリオは勿論いいのですが、老俳優たちの姿がいい。

ほかに短いもので繰り返し見たのは、市原悦子さん主演、深町幸雄さん演出の「大丈夫です、友よ」 山崎努さん主演の「せつない春」 杉浦直樹さん主演の「家へおいでよ」などなど。

しかしいつの頃からか、正確に言うと東日本大震災以降、山田さんのドラマを見ても自分はあまり響かなくなりました。特に震災を扱ったいくつかについては。

それはもう明らかに自分が変わったせいだと思います。震災以降2年以上物語が書けなかったことは前に書きました。フィクションに無力と軽薄を感じ、幻滅しました。

山田さんは震災後1年満たないうちに「キルトの家」というドラマを書いてます。

それはフィクションにもできることがある、と力を信じてのことでしょう。

自分は逆でした。物語を疑うことからやっと自分の方向が定まった気がします。

もちろん違って当然だし、巨匠と自分を比べるのは(並べるのも)不遜だし、多くの作品から様々を学んだつもりでいまだ尊敬の気持ちは変わりませんが、根本的に違う、と思ってから自分はとても自由になれました。
 

 

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物語についてのエッセイ・目次

関連リンク:あれから10年…あとがき

 


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