八ヶ岳日記 -3ページ目

安心の爆睡

にゃん子は、今日も南のデッキでほぼ一日を過ごしていました。
多くの時間を安心しきったように爆睡しているにゃん子が、とても可愛いらしく見えました。

台風12号の接近でこのあたりにも大雨が降り続いた頃、私達は1週間ほど留守をしていました。
我が家に帰ってきた頃には、もう雨がやんで2~3日が過ぎていたのです。
ところが、近くの小川から溢れた水が、川のようになって道を流れ降りていました。
この地で10数年を過ごしていますが、こんなことは初めてでした。

『にゃん子は、大丈夫だったかしら?』
私達が心配をしたのは、にゃん子がねぐらにしている別荘が、その流れのすぐそばにあるからです。
雨がやんで2~3日過ぎてもこの水量ですから、当時は別荘の床下あたりまで水嵩があったかもしれません。

案の定、にゃん子は5日間も顔を見せませんでした。
私達は6月から8月にかけての2ヶ月間を留守にしましたが、我が家に帰った翌日、にゃん子がきました。
それなのに、今回はたった(?)1週間の留守なのに顔を見せません。
主人が、ポツリと言いました。「にゃん子は、流されちゃったかな~。」

「本当に流されてしまったのかしら?」
私は、心配で心配で、一日に何度も玄関や南デッキを見に行っていました。
そんな6日目の朝、南のデッキに来て座っていたのです。

「にゃん子、元気だったのね。良かったわ。」
声を掛けても、鳴きません。何度か掛けていると、やっと…、かすれた声で鳴きました。
怖い思いをしたのでしょうね。

 にゃん子、よく頑張ったわね。

 ほぼ一日、こんな恰好でした。

念願叶って…

トレッキングをしたい…という何年越しかの念願が叶いました。
場所は、北海道の阿寒国立公園にある湖、オンネトーです。

登山はともかく、トレッキングの初心者コースならば…と思っているうちに年を重ね、体力の衰えさえも感じるようになっていましたので、そのコースの入り口に立った時はどれほど嬉しかったことでしょう。

釧路で暮らしている間 に、阿寒国立公園への日帰りドライブをしました。
阿寒湖の遊歩道などを歩いた後、ガイドブックでも紹介してあったオンネトーまで行くことにしたのです。
湖に着くと、ガイドブックに紹介してある通り、水の色がとても綺麗です。
しかも…、小道の入口の立て札には、『遊歩道1.5km』と書いてあります。

主人は私が歩けるかどうか心配してくれましたが、私が歩きたいとはしゃぐので、小道に入って行きました。
歩き始めてまもなく、木の根っこや岩、ぬかるみなどの為に、道らしき所は少なくなりましたが、湖の淵を歩くことができました。
木の枝をくぐったり、根っこを飛び越えたり…、日頃のお散歩で足を鍛えている(?)から、楽しく歩けました。
そして、木立の合間から見える湖の色は、太陽からの光で様々に色を変え、とても美しく輝いていました。

『遊歩道1.5km』とは思えないほど、歩いても歩いても出口は見えず、引き返すにも距離をかなり歩いた頃…、
木立の間に見え隠れする建物がありました。キャンプ場らしく、これで湖のほぼ半周を歩いたようです。
そこから更に、約半周歩いて…、元の場所に帰り着きました。
少々疲れてしまいましたが、景色の美しさや、トレッキングができた喜びが大きくて、幸せな気持ちでした。

帰ってから調べてみますと、オンネトーの周囲は4km程もあるようです。
あの『遊歩道1.5km』は、どこまでのことだったのかしら?

ともかく、『トレッキングができた』ことは私の大きな喜びとなって、今でも、あの素晴らしい景色が蘇ってきます。

雌阿寒岳の噴火による堰止湖です。

光と影と静寂の、見事なバランス…

水の中の倒木までもが美しく見えます。

悲しみの中で…

上り坂のお散歩コースを、上から下りて来られる人がありました。
左手に黄色い花を持ち、深めの帽子をかぶって歩いておられるご婦人でした。

すれ違う時に、どなたと出会ってもそうするように、私達は軽く会釈をして挨拶をしました。
「こんにちは。」
通り過ぎる時、私は『さくらちゃんのおかあさんだわ。』と思いました。
さくらちゃんとは、雑種の犬の名前です。
さくらちゃんの別荘は、我が家の近くにあり、さくらちゃんと、おとうさん、おかあさんの3人(?)で一年に何度か来ておられました。

「あのね。」 今日は、ご婦人が話しかけてこられました。
「5月に、さくらが亡くなりました。糖尿病だったのですが、私が糖尿にさせてしまったんです。その日以来、髪を染めるのをやめました。もう、真っ白になりました。」
さくらちゃんへのお詫びの気持ちが伝わってきました。

いろいろなお話を、10分くらいもしたでしょうか。
淋しくて、悲しくて、切なくて、話さずにはおられないので、是非聞いてくださいというお気持ちだったのでしょう。
「今でも鼻水が流れるのです。」
そんな風におっしゃるご婦人の目に光る涙が、悲しみの深さを物語っているようでした。

以前から主人が言っていました。
「あのご夫婦は、僕たちがさくらちゃんに話しかけた後、必ず、『声を掛けてもらって、良かったね。』と、さくらちゃんに話しかけておられるね。さくらちゃんは、しあわせだね。」

さくらちゃん亡き後、静岡からお二人でこられた今回の旅は淋しいものだったのでしょうけれど、
さくらちゃんも、車にそっと乗ってきていることでしょう。

「私は、まもなく85歳になります。主人も88歳になりました。」
そして、「今度、家に遊びにいらしてください。」とおっしゃいました。


  道沿いの庭先に咲いていました。