21:23
車の後部座席に乗っていた。知らない男性が運転している。運転席と後部座席の間にややゆとりのある、バンタイプの車だった。男性は前を向いているので顔は見えなかった。行き先は……思い出せない。ただ、目的地へ向かっていないらしいことは途中で気が付いた。大分運転が荒い。たぶん動物の死体があったんだろう、フロントガラス越しにちらりと見えたそれを避けるようにして、大きく車が傾いた。速度を落とす気はないらしい。たまに車道を外れたり、川に浸かったりした。それで気が付いたのだ。ああ、これは夢か、と。こんな荒い運転で、無事でいられる筈はないのに。自分は平然と後部座席に座っている。車はどんどん山奥へと入っていく。どうやら、目的地へは向かっていないらしい。行き先も知らないのに、何故かそれが判るから不思議なものだ。どこへ連れていくつもりなのか。運転している男性は前を向いたまま、一言も喋らない。不図、恐怖が湧いた。起きなければ。この車の向かう先が、何故だかとても恐ろしく感じた。起きなければ。起きなければ。手元にスマホが落ちているのに気が付いた。ホーム画面は実家の一室のようだった。畳の上に服が乱雑に置かれている。何のアプリも表示されていなかったのが、一瞬ノイズが走ったかと思うと、デジタル時計が表示された。21:23何故だか、その数字が強烈に印象的だった。何故だろう。起きないと。頭の中に、別の風景が混ざり始めた。車外に見える木々の緑に、灰色の世界が上から静かに降ってくる。頭の中の、どこかにいる私夢から夢へ、夢から現へ