今回の検証は、何人かの人から同じテーマでいただいていた内容です。
「平成のライダーには目にも止まらぬ速さで戦闘するタイプが何人かいます。
そういうライダーは最強議論でもよく出てくるし、実際映像でも強そうですが
スピードの速いライダーと、パワーの強いライダー。どっちが強いですか?
リアルだとどっちが強いかも一緒に検証してください」
全部をひっくるめるとこんな感じの依頼です。
やることを整理しましょう。
・スピードに特化したライダーとパワーに特化したライダーのどちらが強いかを検証する。
・現実の戦闘では、どちらが強いかを検証する。
こんな感じですかね。
まずはわかりやすいようにスピード系とパワー系の違いを見つつ、現実の戦闘を検証してみます。
ちなみに僕は現役時代「スピード系」のタイプでした。
体格が160cm、50kgそこそこしかなく、ボクシングで言えばスーパーフライ~バンダム級くらいの体重で
お世辞にも道場の中でパワーがある方とは言えませんでした(全く何もしてない人と比べれば強いです)
握力は60kg、ベンチプレスとかはやったことすらないです。普通のバーベルは40kgくらいまでしか持った
ことはありません(それ以上は試したことがなかった)
腕相撲は生まれて一回しか勝ったことがありません。
持久力はけっこうある方で、おそらく道場でも3番以内にスタミナのある方でした。
(例えば、強化合宿等での疲労具合では、ほぼ全員がグッタリしていても僕は大丈夫でした)
実はこのテーマを検証するにあたって、現実ではともかく、ライダー世界の設定に難しい部分があります。
それは、スピード特化のライダーの多くはスピードの上昇具合に比べて攻撃力が低く設定されている。
ということです。
そもそもスピードの速い人間は、同時にパワーもつくものです。
なので、スピードだけが異常に発達することは、人間ではありえないのです。
もちろん、スピードにも種類があります。
短距走が早い。長距離走が早い。手が早い。足が早い。体の動きが早い。など、いろいろです。
とくに戦闘に関わる「速さ」となると、手足を含む体全体の動きの速さとなります。
これは単純に走るのが早ければスピードが上がるわけではなく、特別な訓練を要します。
戦闘で必要な速さは主に
・相手との距離を詰める
・パンチやキックなどを打つ
・体全体を数cm~数十cm動かす(身体を移動させる)
・相手から離れる
以上の4つです。
これらを組み合わせながらいろんな動きをします。
僕の経験上、相手との距離を詰める動きが最も早かったのはレスリング出身の人でした。
その突進力は凄まじく、さらに相手を逃がさないような軌道で接近してくるため、防ぐのが大変でした。
パンチやキックを打つスピードは小さな人が早いイメージがありますが、実は大きな人でも早い人は
早いです。
そして、体全体の速度ですが、これは相手の攻撃を避ける、さらに避けながら近づくなどの技術的な要素
が絡んできます。
質問者さんからいただいた内容を見ていると「パワーのある者はスピードが遅い」「スピードのある者は
パワーがない」という話が見て取れましたが、先ほども申しましたように戦闘の訓練を続けた人間は
パワーが上がればスピードも上がるし、逆もまたしかりです。
したがって、漫画やゲームのように、どちらかだけが突出して成長することはありません。
全く違う鍛え方をすれば、そういうタイプも出来上がります。
例えば、筋肉を肥大化させることだけを目的としてひたすらそれに打ち込む。
すると筋肉は肥大化しますが、柔軟性、敏捷性を伴わない筋肉が作り上げられます。
しかし、こんなことをする意味はないので、誰もやらないでしょうし、それでもある程度の瞬発力は
身に付きます。
(例えば僕と同じくらいの体格のウェイトリフターは僕よりも10cm近く垂直跳びを飛んでいました。
ウェイトリフターは重量物を持ち上げる筋肉に特化していますが、瞬発力もあるということです。
ちなみに僕は当時17歳で66cmでした)
なので、質問の意図を正確に、現実の戦闘で検証することはできません。
ですので、ウチの道場の中にいた人間から、パワーのある人、とスピードのある人が戦った時の事例を
元に検証してみます。
「破壊力に差がない人間で、スピードにも差がない場合」
スピードの差は、おそらくコンマ数秒だと思います。計測したことはないのでわかりません。
相手は身長が僕よりも20cmほど高く、体重は15kgほど重かったです。
しかし、スピードは早い部類の人でした。
その人の攻撃は、僕から見れば「やや遅い」です。
相手の攻撃に合わせて左右へ回り込む、間合いを外すなどの「回避行動」を行うことができましたが
全ての攻撃を完全に回避することはできません。
また、僕の行動は相手から見て「やや早い」感じでしたが、それでもほとんどの攻撃は防がれて
いましたし、致命的な一撃を加えることは困難でした。
「破壊力に差がなく、スピードに差がある場合」
身長体重、破壊力もほぼ同じくらいの先輩でしたがスピードは相手の方が上でした。
まず間合いの主導権を握るのは先輩が多数。
しかし、スピードの差を潰して相手に攻撃をヒットさせることもできましたし、破壊力に差がなければ
それほどの不利は感じませんでした。
ただし、スピードに関してのみです。テクニカルな面では格段の差を感じさせられました。
「スピードに差がなく破壊力に差がある場合」
その人は身長、体重ともに僕と変わらず、破壊力だけが僕よりも上でした。
この場合、かなりの不利を感じました。
攻撃のヒットする数は、互角なのですが確実に相手の攻撃に追い詰められていきます。
破壊力は攻撃の上手さにも比例していくので、単純にパワーでは語れませんが不利は否めません。
「スピードに差がなく純粋なパワーが違う場合」
このケースでは苦戦した記憶があります。
何に苦労するかと言いますと「組みあった戦闘」です。
パワーに差がある相手と組みあうと、一方的に振り回されるため疲労が半端ないです。
「スピードに差があり、パワーにも差がある場合」
スピードは明らかにこちらが上。しかし、パワーでは相手が格段に上。
こういうケースです。
相手は身長で15cm、体重で30kgほど上回る人でした。そしてベンチプレスで200kgをあげます。
(なんと修羅の門の陸奥九十九と同じ!!)
このケースは、今回の質問にかなり近いケースです。
まず、相手の人は僕と組手したあと「完さんの攻撃、見えなくなるんですよ」
どうやら、僕の得意な攻撃が、彼には「見えてない」そうです。
早くて見えないと言われたこともありましたが、何らかの拍子に姿が消えるとも言っていました。
彼の動きは僕から見れば「見えやすい」です。
メインとなる攻撃は、ほぼ確実に当てることができましたし、相手のパンチもキックも、見えてましたし
防ぐのは難しくありません。
しかし、相手にダメージを与えることは難しかったです。と、いうよりダメージを与えることができないと
言った方がいいかもしれません。
彼が「見えてなかった」と言っていた攻撃の中に、死角から頭部に蹴りを叩き込む技がありましたが
直撃しても彼はケロっとしていました。
僕の必勝パターンの攻撃でしたが、一撃ではダメージを与えることはできなかったです。
逆に彼の攻撃は防ぐことは難しくないものの、防いだ腕や足にはダメージが確実に蓄積し、こちらの攻撃
に合わせて道着をつかまれて振り回される。組み付いて膝蹴りを受けるなど、カウンター気味の攻撃を
受けることも少なくありません。
なにより、一撃でもクリーンヒットしたら倒れそうなダメージを受けてしまいます。
一度、彼の正拳を顔面に受けて一週間も痛みが取れないことがありました。
以上、いろんなケースを見てみましたが、現実世界で僕は「スピードタイプ」でしたが「パワータイプ」の
人と戦って「楽勝だった」ことはありません。
パワータイプの人は打たれ強く、攻撃力もあり、倒すまでにかなりの集中力とスタミナを要します。
そして、スピードが速いだけでは「強み」にすらなりません。
スピードを生かすために「技術」と「集中力」が必要です。
よくパワーのある人に「完さんには当てにくい」と言われましたが、こちらから言ってしまえば
「当たらないようにするために、とんでもない集中力とスタミナが必要」なのです。
相手の攻撃を受けるだけでもダメージを負います。ノーダメージにするには避けるしかなく、避けるためには
集中力とスタミナが不可欠。時間が過ぎればすぎるほど消耗するのはこちらです。
例えば時間制限を設けて、組み付いたり、倒れた相手への攻撃をなくせば僕でもそこそこ優位に
戦うことはできるかもしれませんが、制限時間もなく、ルールも特にないのがウチの道場だったので
「ちょっとスピードが速い」だけでは、相手を制圧することは難しいと言うのが僕の所感です。
黒帯になった頃には、後輩のパワータイプをやり込めることはできましたが、やはり同じくらいの位置に
いるパワータイプの人を制圧するのは難しかったです。
以上、まずはスピードタイプの僕から見た「現実世界のスピードVSパワー」でした。
パワータイプの相手から逃げるとかなら、ひょっとして有利だったかもしれませんね。
持久力には自信があったので・・・。