お歯黒を施すための薬剤には、
これまで触れてきた五倍子(ごばいし)を乾燥・粉砕した粉末、そして鉄漿水(かねみず)が用いられてきた(既述)。

 

 

拙記事

http://ameblo.jp/nishinaka-d/entry-12175283912.html


五倍子の採取は、秋の彼岸頃が良いとされ、戦前には採集日に関する県令が決められていたという。
竹竿の先端に剃刀を取り付け、木の幹や枝をできだけ傷つけないよう、また、1本のヌルデの木には必ず1〜2個の五倍子を残して採ったらしい。
採取された五倍子は70℃以下で蒸したり、天日干しにより乾燥した後、粉砕、篩(ふるい)にかけたものを使用したとされる。

 

五倍子の粉中成分の約6割を占めるのがタンニン酸(以下、タンニン)。
このタンニンが歯を黒くする主要成分の一つになっている。

 

歯の黒染の原理は、下記。

 

タンニンと鉄漿水(酢酸第一鉄)を共に歯に塗布すると、各々が歯質中に浸透するとともに、空気中の酸素で第一鉄イオンが酸化されて第二鉄イオンとなり、次第に不溶性の黒いタンニン酸第二鉄をつくる。

これがエナメル質の内部間隙および表面に沈殿、沈着することにより、歯が黒染する(下記、文献1より)。


 

タンニンは古くから医薬品、食用、工業用の原料として用いられてきた。
代表的なところで、漢方薬、革製品の皮なめし、インキ、木材の着色、染料、防腐剤等、多岐にわたっており、今も尚その用途開発が進められているという。

 

タンニンの染色以外の作用(効能)の一つには、タンパク凝固、収斂作用があげられる。

これらは、皮なめしに応用され、腐敗防止や細菌付着の抑制に役立っている。

 

下記の画像はそれぞれ、
かぶせや仮歯を装着するためのセメントの一つで、株式会社松風が製造、販売している「ハイ-ボンド カルボセメント」


次は、う蝕進行抑制剤、いわゆるむし歯の進行止め薬剤である「サボライド」

 

 

これらは、お歯黒の黒染原理、タンニンの上記効能から着想を得て開発されたものである。

 

これについては、また別の機会に紹介したい。

 

 

 

■参考文献

1)山賀 禮一:口腔衛生予防がわかる お歯黒のはなし、ゼニス出版、東京、2001.